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違和感はようやく表に

俺は父さんの亡骸(死んでない)を素通りして

居間に向かった。


「あらアル、おはよう」


父さんが犠牲になってくれたおかげで

ストレスが無くなったのか、母さんは

笑顔で挨拶してきた。


「おはよう、母さん」


机が椅子に座ると、母さんはすぐに

朝食を運んでくれた。


「...うん、やっぱ美味いな。 ルリの料理も

美味かったけど、やっぱ俺としては

母さんの料理が一番だな」


しみじみと呟く俺の声が聞こえたのか、

母さんは満面の笑みを浮かべると


「あらありがとう! そんな風に褒められると

母さん嬉しいわ!!



...ところで...」


母さんの顔に影が帯びた。


「ルリって...誰のことかしら?」


...アカン。


いや、落ち着け。 


あの酷さは相手が父さんだから発動される

のであって、初対面の人には発動しないはず...


そもそも、ルリには料理を作ってもらった

だけ...じゃないな。


一緒にここまで来て、あと、母さんと

同じ部屋で寝るのは断ったのにルリとは

部屋よりも狭いテントの中で二人で寝たな。





ヤバイ。 バレたら死ぬ(ルリが)。


「いや、ルリってのは男の人で――」


母さんは言葉を遮るように俺の肩に手を置いた。


「...母さん、本当のことが聞きたいな」


この人、目が据わってるんだが!?


とはいえ、本当のことを言えば大変なことに

なるだろうし...


「ごめん、実はルリって人は女の人

なんだ」


「やっぱり...」


「でも、その人が料理を作ってくれたのは、

俺がここに来る途中に腹が減って倒れた

ところに偶然通りかかったからなんだ。


だから、彼女が居なきゃ俺は死んでたかも

しれない。


ルリは命の恩人だよ」


かなりオーバーな脚色をしてまるで演劇家の

ように演技する俺を見た母さんは――


「なーんだ! 母さん早とちりしちゃった!

ごめんねアル!」


母さんは意外とチョロかった。



俺は朝食を食べ終えると、また都市の探索に

出た。


ボロを出したらルリが危ないからだ。


...そういや今頃ルリはどうしてんだろ?

今日は確か情報収集と準備...だったか?


うーん、今のところ暇だし、俺も情報収集

してみるか。


情報が集まったら渡された紙に書いてある

宿に行けば会えるだろうし、そこで

情報と一緒に帰る日を伝えるか。


俺は今日の行動を決めると、早速情報収集の

ために動き始めた。













「魔族? そんな噂知らないな...。

ここは平和だし、そんなことなんて

起こってねぇと思うぞ?」


「そうですか...ありがとうございます...」


変だ。


一日中聞き込みをしたが、皆が口を揃えて

『知らない』と言う。


昨日だって皆がこの都市は平和で変な噂は

ないと言っていた。


だが、本当にここの近くで魔族によって

大怪我させられた人が何人も出たら噂に

なるはずだ。


だが、噂にはなっていない。


この事に昨日の時点で気付くべきだった。


「よくわからないけど、ルリもすでに

違和感に気付いてるだろうな...」


そもそも、その噂をルリに教えた商人という

のが、ただのホラ吹きなのか、それとも――




――ルリが勇者だということを知っていて

わざと嘘の噂を教えてここに引き寄せたのか。


前者ならまだ良いが、もしも後者だったら...。


「ルリが危ないな...」


とりあえず調査に出るのは明日だって

言ってたし、ルリはもう宿に戻ってるはずだ。

少しルリとこのことについて話してみるか。


俺は紙に書いてある宿に、衛兵に場所を

聞きながら向かった。


そんなに遠くではなかったようで、宿に到着

するのには、それほど時間がかからなかった。


宿に入ると、俺は受付の女の人に話しかけた。


「ここにルリって人が泊まってると思うんですけど...」


「...その髪の色と見た目は...お客様の

おっしゃっていたアルさんですか?」


「あ、そうです」


「お客様にはアルさんが来たら

部屋に通すようにと伝えられております」


「そうですか、なら――」


「ですが、お客様は数時間前に一度戻ってきて、

その後、私にある程度の質問をしたあと、

お客様はすぐに外出なされました」


「は? 外出?」


それってつまり――


「出ていく前にお客様は


『都市の外に出てくるから夕飯には間に合わないと

思う。 


だから僕の分は準備しなくても良いよ』


と申されていました」


あいつ...焦りすぎだ...!

もし罠だったらどうする!

いや、あいつのことだ...ワザと罠に

嵌まりに行って首謀者を叩こうと

思ったのかもしれない。


となると――


「受付さん、ルルグス周辺で一番、人気ひとけの無い場所ってどこですか?」


「それでしたら幻影の森ですね。


迷いやすいため、あまり人が立ち入ることはありません。 


場所は北門を出て真っ直ぐです。


ちなみに、お客様にも同じ質問をされたので、

同じ場所をお答えさせていただきました」


「ありがとうございます!」


俺は即座に走り出した。

何事も無きゃいいんだが...!


ルリが焦りすぎだと思っていた俺だったが、

俺もつい焦ってしまっていた。


だからだろう。


受付の人の口元が笑っていたこと気が付くことが

出来なかった。


「――人間って本当に馬鹿な生き物」


その日、宿は忽然と姿を消した。


いや、元々その場所に宿なんて無かった。

ただ元に戻っただけ。 それだけのことだった。


「二人で仲良く、死んできてね」

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