農民は逃げられない
※少し修正しました。
俺はなんとか業者のところへ駆け込み、
納品を終えた。
あと少し遅かったら納品させてもらえなかった
かもしれないと考えるとゾッとする。
それでは来た意味がなくなるからな。
「さてと、用も済んだしとっとと帰るか」
俺が馬車に乗ろうと振り向くと
先程助けた金髪の女の子が笑顔で後ろに
立っていた。
待て、何故ここにいる。
「......」
彼女は無言でニコニコとしているが何故か
その笑顔を見ていると背筋に寒気が走った。
「ねぇ...」
彼女が話しかけてきたが、俺は逃げた方が
良いという警笛を鳴らす本能に従い、すぐさま
馬車に乗った。
「サテ早ク帰ラナイト日ガ暮レチャウナー!
急ガナキャー!」
棒読みになってしまったがこれでこの場を抜け出す
言い訳が出来たと判断した俺はすぐさま馬車を
走らせた。
てっきり止められるのかと思ったが、女の子は
特に何も言ってこなかったので、そのまま
置き去りにした。
逃げ出しておいてから思うものではないが、
何故逃げ出したのかわからない。
ただ本能に従っただけだ。
このままでは間違いなく農民として暮らせなく
なると本能が告げている。
っと、そろそろ門が見えてきた。
「そこの者、止まれ!」
門を通りすぎようとしたところで門番に
止められてしまった。
この緊急事態(?)で忘れていたが入るときは
当たり前だが、出るときにも通行証を
見せないと行けないんだったな。
流石に焦りすぎたな。
「悪い、ちょっと焦っててな。
ほれ、通行証だ」
「いや、それのことじゃない」
え? それの事じゃないの?
あっ、馬車で突っ走ってたことか?
一応人通りが多いところだし馬車で
全力で走ってたら怪我人が出ちゃうからな。
「わかった、今度から馬車の扱いには気を付ける」
「いや、それでもない。
上から馬車に乗った農民の若い茶髪の男を通さず
待たせておくよう言われているのでな、悪いがここは通せん。
上に連絡を入れるからそこで待っててくれ」
「俺、確かに茶髪だけど関係ないと思うんだが...」
恐らく大手の商人か貴族と契約でもしている農民が
いるのだろう。
上から言われてるってことは身分の高い人の
命令なんだろうし。
だが、生憎なことに俺は身分の高い人と知り合いな
わけでも悪事を働いたわけでもない。
人違いということですぐにでも解放されるだろう。
そういえば何か忘れているような...
「見つけた」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「えっ?」
振り返ってみるとそこには
うげ、さっきの金髪の女の子が居る。
連絡を取ると言っていた門番が女の子を
見つけると、すぐさまそちらへ駆け寄った。
「丁度良いところにいらっしゃいましたね。
今、姫様に連絡を入れようと思っていた
ところです」
「...姫、様?」
おい、待て、嘘だろ......?
「言い遅れたね。
私、王都メイギス第一王女の
ファル・イース・メイギスって言うの。
よろしくね」
ファルは俺に微笑みかけてくるが、俺は
そんなことを気にしている場合ではなかった。
王女ファル・イース・メイギス
幼いながら母と兄を亡くすという
経験をしながらも、悲しさに暮れる姿を
一切国民には見せず、堂々とした振る舞いで
支持をされている人物だ。
そんな人物に用があると言われるなんて
面倒事の予感しかしなかった。
「そ...そんなお偉いお方が農民の俺なんかに
何のご用ですか...?」
「そんな固くならなくってもいいよ!
さっきみたいにタメ口でいいよ! ほら!」
「いや...でも...」
「これ王族命令だから」
「...お、おう」
なんという職権濫用だ。
「それでなんだけどさ、王宮に仕えてみない?」
「死んでも嫌です」
と言いたかったが、そんなことを言ったら不敬罪で
打ち首になりそうなので、俺は一度息を吸うと...
「――このような農民の出である私に
大層光栄で魅力的なお話で御座いますが、
それは私の身に余るお仕事でございますので
お断りさせていただきます!」
唐突に流暢な敬語使いに呆然となっている
隙にさっさと帰ろうとしたのだが。
「待って待って待って! 何で!?
王宮に仕えられるんだよ!? 稼ぎ良いんだよ!?」
チッ、気を取り戻したか。
「俺は農民として生きていくって
決めてるんだ! これだけは譲らない!」
「そんな! あんなに強いのに勿体ない!
考え直してみてよ!」
「何を言われたって俺は変わらないぞ!
俺は畑で土弄りでもして余生を過ごして
死にたいんだ!」
「どんだけ畑好きなの!? ほら...えっと、
畑! 畑好きなんだよね!? 実は王宮近くにも
畑があって...」
畑...だと?
「ほう」
「あっ、それで興味向くんだ。
......じゃなくて! 王宮に来れば質の良い畑
弄り放題なんだよ!? 畑好きの君からしたら
最高の職場だと思うよ!?」
「なん...だと?」
これは魅力的な提案だ。
思わず心が傾きそうになる。
だが王宮に行けば当然他の仕事がメインになる
だろう。
というか...
「...どうして俺を引き入れようとしてるんだ?」
「えっ?」
わかってなかったの? という視線が俺に
突き刺さった。




