思い立ったが吉日
今日、依頼を終えて家に帰ると、
隣の都市に住む親から手紙が届いていた。
どうやら俺が王都に移り住み始めたことを
どこからか知ったらしい。
誰だ情報流した奴、出てこい。
まあいい、とりあえず手紙を読むか。
『アルへ
おう、アル。 元気にしてるか?
俺と母さんは元気だぞ!
ところでお前、王都に引っ越したんだってな!
俺が村を出るときに誘ったときは
農民になるって聞かなくて動かなかった
のにな!
どんな心境の変化だ?
まさか女でも出来たんじゃないだろうな?
いや、お前に限ってそんなことはない...よな?
さて、話を戻そう。
単刀直入に言う、今度会いに来てくれねぇか?
俺達からお前に会いに行きたい気持ちは
山々なんだが、仕事の関係でどうしても
この都市を出れなくてな。
手紙に金を同封しておいたから、それで
護衛を雇うなり馬車に乗るなりして
こっちに来てほしい。
別にそんなにすぐ来てくれとは言わない、
暇なときで良い。
久しぶりに三人で話せるのを楽しみにしてるぞ。
P.S
手紙の裏に家の場所の住所を記しておくから
見ておいてくれ。
その場所を衛兵に聞けば多分教えてくれる
はずだ』
手紙の裏を見ると、確かに住所が書かれていた。
「...どうせ暇だし、早めに顔見せに行くか...」
とはいえ、数日間は王都離れることになるかも
しれない。
ほとんど毎日会うヘレンさんには
伝えておこう。
ファルには...そもそも俺から会いに
行けないし、数日に一回会うか会わないか
くらいだから伝えなくてもいいか。
俺はそう決めると、明日には行けるように
荷物をまとめた。
―――――――――――
翌朝、俺は朝飯を終えると、
身支度を終わらせ、荷物を持って家を出た。
まず俺が向かった先は冒険家ギルドだ。
「アル君、おはよう。 今日は早いのね」
そう言って笑いかけてくるのはヘレンさんだ。
彼女は今は受付嬢の仕事をしているが、
週に2~3回は冒険家として活動するようになった。
冒険家として慣れてきたら、いずれは
受付嬢をやめて冒険家一筋で生活するつもりらしい。
ヘレンさんが冒険家として活動するときは、
俺も一緒に行くことがある。
そのときに俺に集まる男性からの殺意と言ったらそれはもう恐ろしいものだった。
だが、この前、周囲に男性冒険家が
多いときに同行してほしいと言われた
ときに、あまりの周囲からの視線に
怖じ気付いて、断ろうとしたのだが、
『ご...ごめんね? そうだよね。
アル君にも予定があるんだもんね。
わかった! 大丈夫! 一人で行ってくる!』
と、無理矢理作ったような笑みで言われてしまって謎の罪悪感に駆られた俺は、すぐさま前言を撤回し、それ以降ヘレンさんの同行は断らないようにしている。
ちなみに、邪龍の力の一片が体内に
残されているだけあって、今のヘレンさんはかなり強い。
龍の力の行使に慣れてきたようで、
聞いた話によるとブレスも使えるのだとか。
とはいえ、人前で口を大きく広げて
放つブレスは恥ずかしいとのことで
未だに見せてもらえないのだが。
「今日は何の依頼を受けるの?
昨日Fランクに上がったんだし、
いつもよりひとつ上のランクでも受ける?」
さらっとヘレンさんが言ったが、俺は
昨日ランクがFに上がった。
なので、受けられる依頼の範囲が広がったの
だが、生憎、今日は依頼を受けに来たわけではない。
「あ、いや。 今日はヘレンさんに
伝えたいことがありまして」
「伝えたい...こと? もしかして何かあったの?
それだったらギルドマスターとかに――」
「あ、そういうのじゃないんです。
これはヘレンさんだけに伝えたいことなので」
「えっ?」
何故かヘレンさんの顔が赤くなった。
「えっ? あのっ、それってどういう...」
どうしてヘレンさんは狼狽えているのだろうか?
「いや、そのままの意味ですよ。
こんなこと言う相手は俺にはヘレンさんしか居ません」
俺、王都にヘレンさんの他に仲良い人居ないし。
ファルには俺のデメリット無しにこのことを伝える手段は無いし。
つまりヘレンさん以外の人に言うことではない。
「えっ...えええええ!?」
俺の言葉を聞いてさらに赤くなるヘレンさん。
「じゃあ言いますね」
「ちょっ! 待って! 心の準備が――」
何で心の準備がいるんだ?
もしかしたら何か壮絶なことを打ち明け
られるのかと誤解してるのかもしれないし、
早めに伝えてあげよう。
「数日間、王都に帰ってこないのでそれを伝えに来ました」
「......え?」
さっきまで赤かった顔が今度は青白くなった。
何だ? 今日は顔の色がコロコロ変わるな。
「それって...どういう...?」
心なしか泣きそうにも見える。
ぐっ...何も悪いことはしていないはずなのに
変な罪悪感が...。
「何か王都で嫌なことでもあったの?」
ん?
「そんなにすぐ決断しなくても、
私は相談くらいなら乗れるよ?」
あれ?
「なんなら私に出来ることがあれば
何でも――」
「いやいやいや! 別にそーゆのじゃないですから!!
隣の都市に住んでる親に会いに行くだけですから!
それで、数日の間は帰ってこないと思うので
それを伝えに来ただけです!」
「あっ! そういうこと!
よかったぁ~...、アル君が王都を出ていっちゃうのかと...」
ヘレンさんは胸に手を当て安堵の息を吐いた。
「出ていくわけないじゃないですか。
そうなる前に相談しますよ」
「本当に?」
疑いの視線を向けてずいっと顔を近づけてくるヘレンさんに俺は思わずたじろいだが
「はい、本当です」
と答えると
「うむ、よろしい」
ヘレンさんは納得したようで引き下がった。
「じゃあ、行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
手を胸の前で小さく振ってくれるヘレンさんに
俺は手を振り返すと、俺は冒険家ギルドを出た。
ファルよりヘレンさんの方が後に出てきたのに
ヘレンさんの方がヒロインシーン多い気ががががが