依り代は贖罪を決意す
この話出したあとから少しずつ修正していきます。
「ん...?」
目が覚めると、俺はベッドで寝かされている
ことに気がついた。
「ここは...」
「あら、起きたの?」
「え?」
顔を横に向けると、私服のヘレンさんが椅子に
座っているのが見えた。
「ここは...?」
「診療所。 幸い大した怪我はしてなかったけど
気絶してたから一応運ばれてきたってとこね」
「そうですか」
俺は体を起こすと、上半身をヘレンさんの方に向けた。
「あの後、どうなったかわかりますか?」
「それなんだけど...」
ここからはヘレンさんが聞いた話だ。
なんでも、神々しい光が発されたと共に、
邪龍の恐ろしい気配が消えたため、国の諜報班が
確かめに来たらしい。
そこに居たのは、気絶していた俺とヘレンさん、
あと、倒れていた聖龍だったらしい。
諜報班は聖龍が先ほどの光で邪龍を倒したと
判断したらしく、無事に事が収まったとの
報告をした。
そして、そのあとすぐに俺達は診療所に
運ばれ、今に至るとのこと。
「倒れてた聖龍はどうなったんですか?」
「そのまま目を覚まさなかったって...」
クソッ...それ相応の力って命の事かよ...。
「アル君、大丈夫。 君は悪くない」
ヘレンさんは、表情から俺の思っている
ことを悟ったのか、慰めてくれた。
「私ね、アル君が意識を失ったあと、
聖龍さんと話したの。
とはいえ、一方的に話しかけられただけだけど」
「? それってどういう...」
「私、体の自由は効かなかったけど、
意識はあったでしょ?
なんでかわからないけど、私の体を
乗っ取ってた龍が気絶したあとも、
私の意識だけはそのまま起きてたの。
そのとき――」
『――娘。 意識はまだあるのだろう?
残念だが、我はまだ全ての力を取り戻した
わけではない。
故に、完全には邪龍の力を消すことは出来ん。
だが、私は代償に命をかけて消せる分は全て消そうではないか。
これで日常生活を支障無く送れることだろう。
何、命を使うことに関しては気にするな。
操られていたとはいえ、この体はお前ら
人間を殺めすぎた。
これは贖罪...罪滅ぼしのようなものだ。
これだけで贖罪になるとは思えんが、今はこれで
許してくれ』
「そう言ったあと、あの龍は浄化をしてくれて、
その瞬間に私は意識を失ったの」
「...そうなんですか」
贖罪...か。
「はぁ...、本当はアル君も頑張ったのに、良いとこ
全部あの龍さんに持っていかれちゃったね」
そう笑顔で言ったヘレンさんは指先で口元を
押さえながら、俺を見て『ふふっ』と笑った。
「? 何がおかしいんですか?」
「いや、だってアル君は名誉とか恩賞とか、
全然興味無いでしょ?」
「よくわかりましたね、だって俺は――」
俺が言葉の先を言うよりも先に
「――超一流の農民になる......でしょ?」
ヘレンさんが答えた。
「まあ暫定、ですけどね...」
「うん、それでも立派な夢だと思うけど?」
あっけからんと言うヘレンさんを見て、
俺は初対面のときのことを思い出し
「いや、最初に言ったときに笑いを
堪えてましたよね?」
「あー...あれは...その...笑ってたんじゃなくて...」
「え?」
いや、でもあのとき目尻が涙が出そうなくらい赤く――
あれ? まさか...
「...えと、もしかして...泣きそうになってた
...なんて...」
俺がそう言うと、ヘレンさんは顔を少し
赤くして俯いた。
え? マジで?
「あ、あんまりにもライく――私の弟に
似てたから...その...思い出しちゃって...」
「本人にも似てるって言われましたけど...
そんなに似てます?」
「似てる」
きっぱりと言うヘレンさんだったが、
突然顔が赤くなったかと思うと、頬を
人指し指で掻き、目をそむけながら
「でも...その...あのときは...弟とは少し違う
男らしさがあったというか...えっと...、
格好良かった...というか...」
「え?」
ボソボソと言うので、よく聞こえなかった。
「~~~~~っ! なんでもないっ!」
そう言ってヘレンさんは腕を組んでそっぽを
向いてしまった。
「ええ...」
なんだこの理不尽。
俺何かした?
少し怒っているようだが、俺には確認したい
ことがあった。
「ヘレンさん、その、ヘレンさんの体の方は
大丈夫なんですか?」
思えば、邪龍の憑依に付いては不明な点が
あった。
それは、憑依というスキルがステータスに
表示されなかったということだ。
そのため、聖龍が治療してくれたとはいえ、
俺は不安だった。
「え? 私?」
今自分の体の事を聞かれるとは思わなかったのか、
怒っていたのはどこへやら、目を見開いて、
自分に指を指した。
「ええ、ヘレンさんの...って!」
ヘレンさんの見開かれた目を見ると、
左目が赤いままだった。
「ちょ! ヘレンさん!? 大丈夫なんですか!?
目が...!」
「ああ、これなら心配しないで」
そう言って微笑むと
「はっ!」
ヘレンさんが力を入れた瞬間、左腕が龍化した。
「..........................................」
「どう?」
「『どう?』 じゃないですよ!!
え? それヤバくないですか!?
やっぱり侵食され――」
「大丈夫、ほら」
ヘレンさんはすぐに腕を元に戻した。
「...」
ヘレンさんは唖然とする俺を見て、
ドヤ顔のような表情を向けると
「これ、両手両足出来てオンオフ可能なの」
「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
思わず乱暴な言葉遣いで叫んでしまった。
「...でも正直、最初にこれがわかったときは抵抗があったの。
でも、2日間考えてみてわかった。
この力は、今まで人を殺すために使われてきた。
だったら、この力はそれを償わなきゃならないって。
だから私はこの力で、人を助けるようと思ったの。
今まで殺してしまった分だけ...は無理かもしれないけど、少しでも多くの人をこの力で救いたいって思ったの」
力を手にした者はその力に溺れることがあると聞く。
それが権力だとしても自身の能力だとしても
それは同じだ。
だが、彼女はそんなことはない。
むしろその力を正しい方面に使おうとしている。
その力は自分のトラウマそのものだというのに。
「...立派ですね。 俺、そういうの尊敬します」
そう言った俺に、ヘレンさんはニッコリと
微笑むと
「ありがとう、アル君」
そう言ったヘレンさんを見て俺は
――初めて彼女の本物の笑顔を見た気がした。
「ところでヘレンさん? 2日間悩んだって言ってましたがそれはどういう...」
「言い忘れてたけどアル君は
4日間、目を覚まさなかったの。
その間に王女様がお忍びでお見舞いに
いらっしゃったんだけど...お知り合いなの?」
おうふ、マジか。
だが、知られたら面倒なことに
なりそうだと思った俺ははぐらかすことに決めた。
「あはは、なんのことやら。
きっとそれは見間違――」
「アル君! 目を覚ましたんだね!」
そう言いながら病室に入るなりこちらに
向かってくるファルを見て、
少しは休ませて欲しいと、俺は心底思った。
第2章 完。
雑な描写、内容の薄さ、伏線の甘さ
三拍子揃っちゃってますね...。
さて、まあそれは置いといて(え
今回は受付嬢のヘレンさんメインのお話でした。
次回は誰がメインになるのかはお楽しみに。
それでは。 また第3章で会いましょう。
P.S:前書きにも書いた通り、少しずつ修正を
加えていきます。
ご理解のほどよろしくお願いします。