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消え行く神

 ついにテスタへ一撃が入った。それによりテスタは仰向きに倒れたが、そのまま立ち上がろうとはせず、


「ってぇ……依り代が無いだけでこんなにも違うのかよ……。ははっ……体に、力、入んねぇよ……」


 そう言いながら、弱々しく笑った。


 だが、テスタはイルビアを依り代としていない状態でも充分に強かったように思えたし、今の俺の一撃だけでここまでになるとは考えにくい。


 どういうことなのかと思っていると、イルビアが口を開いた。


「テスタさん……。やっぱりもう、限界だったんだね……」


「限界……?」


「前に話したでしょ? 『もうすぐ邪神は死んじゃう』って。多分それが今なんだと思う」 


「……そうなのか?」


 尋ねると、テスタは力なく口を開いた。


「……ああ、依り代があるならまだしも、生身の状態じゃ流石に限界みたいだな……」


 そう言ったテスタの体は、少しずつではあるが消滅し始めていた。


「そうか。……なあ、消える前に聞いておきたいことがあるんだが」


「……なんだ?」


「俺のステータスがとんでもない数値になったあの時点では、俺の体にはお前の力が入っていたんだよな?」


「そうだが……それがどうかしたか?」


「なら、何で俺をその時点で支配するなり命令するなりしなかったんだ? 別に俺はお前の力だとわかっていてあの力を受け入れたわけじゃないが、それでもお前は俺にある程度のことは出来ただろ?」


 俺がそう聞くと、テスタは少し口元を緩ませた。


「……そうかもな。多分、いや、絶対出来たと思うぜ。俺も元々はお前が力を受け入れた瞬間に支配するつもりだったからな」


「は? ならどうして……」


「お前が大幅に強くなったのを知ったあのとき、ようやく念願が叶うと思った俺は、お前をすぐに支配しようとしたんだ。……でも、出来なかった」


「出来なかった……?」


「ああ。そのときはただ一言、『俺に体を渡せ』とお前に命令するだけで良かったんだ。だが、それを口にしようとしたとき、何かが違うって思ったんだ」


 そう言って、テスタは自嘲するように笑った。


「笑っちまうだろ? 邪神の俺が、利用するためだけに近づいた人間に対して、『支配なんてせこい真似はせずに本心から受け入れてほしい』なんて思っちまったんだ」


「テスタ、お前……」


「ドン底に居た俺にとって、お前と過ごした十数年は充実しすぎてた。最初は利用するためだけの駒だと思ってたのに、今となってはお前が親友だって本気で思ってる。だからこそ、親友であるお前に、俺のことを肯定してほしかった」


 だが、とテスタは続け、


「もし受け入れられなかったらと思うと怖くて、俺はお前に本当のことを言えなかった。そうしてる間にお前はシルス村から離れちまうし、俺も限界がどんどん近づいて来た。そしたらもう……手段を選んじゃいられなかった」


「ってことは、部下を俺たちのところに送ってきたのって……?」


「ああ、お前を無理矢理連れ戻すためだ。そのために"幹部"なんて立派なもんまで作ってさ、それがお前を連れ戻すことが出来る唯一の方法だって本気で思い込んでた。結局は俺含め全員倒されて……このザマだけどな」


 そう言って、テスタは自分の体を見た。体はほぼ消えかけており、あと少しで完全に消えてしまいそうだ。


「なあアル。俺からも最後にひとつ、聞いて良いか?」


「……ああ」


「もし、さ。もしも俺がもっと早く本当のことを伝えてたらーーお前は俺を肯定してくれたか?」


 俺はその質問に、溜め息をついてから答えた。


「わかんねぇよ。……でも、否定だけは絶対にしてなかっただろうな」


 俺の言葉を聞くと、テスタは笑みを浮かべながら涙を溢した。


「ははっ……。そうか……。それが聞けただけでも、充分だ……」


 その言葉を最後にテスタは消滅し、俺たちと邪神との戦いは幕を閉じたのだった。 

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