呪縛からの解放
「何故だ……? どうして命令に従わない……?」
焦りと驚きが入り混じった表情で言ったテスタに、イルビアが答えた。
「気付いてないの? もう私の身体からは、貴方の力なんて全部抜けちゃってるんだよ?」
「な……!?」
テスタの表情がさらに驚愕に染まる。
「リンクさん。まさかさっき分離したときに……?」
「いえ、私はただ無我夢中でやっていただけなんですが……でもそれが結果的に功を奏したのであれば良かったです」
どうやらリンクさんが頑張ってくれたおかげで、イルビアの身体からテスタを追い出すだけでなく、テスタの力も全て引き離せたようだ。
「なるほど、あのとき全部やられたのか……。だが……」
テスタは俺たちに近づきながら、
「良い気になるなよ。確かに俺はイルビアの身体を失って弱体化はしたが、ボロボロになっているお前や、大して戦う力のない人間二人くらいなら余裕でーー」
「ーー僕たちのこと、忘れてない?」
瞬間、目にも止まらぬ速さで何者かがテスタを斬り付けた。
「何っ!?」
直ぐに反応して後方へ避けたテスタだったが、不意の一撃を完全に避けきることが出来ず、少しではあるが肩から斜めに斬られていた。
「チィッ……! 俺が分離されたことで動けるようになってたのか……!」
傷口を押さえながら言ったテスタに、斬り付けた本人であるルリはニヤリと笑みを浮かべた。
「もちろん僕だけじゃなくて、二人もとっくに動けるようになってるよ?」
ルリがそう言った直後、何かが光って視界を眩ませたかと思えばヘレンさんがテスタの懐に入りこんでいた。
「ッ!?」
ヘレンさんが拳でテスタを攻撃しようとしたが、テスタは腕を交差させてそれを防御した。
「やっぱり一筋縄じゃいかないわね……」
「うーん。同じ作戦じゃ通用しないかぁ……」
ファルとヘレンさんはそう言いながら、俺たちのところまで下がってきた。
「アル君、頑張ったわね。今なら邪神を倒せるチャンスだと思うわ」
「折角イルビアちゃんを助けられたんだから、ここで負けるわけにはいかないよね!」
確かにテスタを倒すなら今が絶好のチャンスだ。この機を逃すべきではないと思う。だが……。
「……アル君?」
顔を覗き込んでくるファルの声には答えずに、俺はテスタの方へと近づいた。
「へっ……! 何人来ようと同じだ! 俺はーー」
「テスタ……もう、やめにしないか……?」
「………………は?」
テスタだけではなく、他の全員も俺の発言に驚いていたと思う。
だけど俺は、イルビアを助けたかったのはもちろんだが、テスタとも戦いたくはなかった。
「今のお前じゃ、俺たち全員を相手にしたら勝てないだろ。だがらもう、こんなことやめないか? そうすればーー」
「ふざけた事言ってんじゃねぇ! テメェに戦う意思が無かったとしても、俺はお前を今すぐにでも殺してやりてぇと思ってんだよ!!」
そう叫びながら殴りかかってくるテスタを見て、俺は俯いた。
「そっか。そうだよな……」
わかってはいた。こんなことを言ってもテスタは止まらない。何をしたとしても、俺たちは元の関係には戻れない。それなら、せめてーー。
「俺が終わらせてやる」
テスタの拳を避けた俺は、手加減を一切せずに親友を殴り倒した。




