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その依り代は龍になりゆく

「――え?」


俺が視線を下に向けると、ヘレンさんが手に

持っているナイフで俺を刺していて――


彼女はナイフを抜いた


「あぐぁっ!!」


熱にも似た痛みが走り、服に血が滲む。

患部を押さえようとしたが、それを目の前の

彼女が待つわけも無く、追撃を加えようと

ナイフを振るった。


「ちぃっ!」


あまりの痛みに汗ばむ身体を無理矢理後ろに

仰け反らし、ナイフは俺の髪の毛を少しかすり、

何本かの髪の先が宙を舞った。


俺は後ろに下がり距離を取ると、ヒールで

患部を治療した。


「あら残念、今ので決めるつもりだったん

だけど...」


「ヘレンさん...何で...?」


その問いかけに彼女は答えない。

そのかわりにニッコリと笑ったあと

目を見開いて――


「――すぐに殺してあげる」


そう言いながら血の滴るナイフを舌で舐めた

彼女の目に、今までの面影は無かった。



何でだよ? 何でそんなことするんだよ?

まさか今までの言動が全部演技だった...ってのか?


「どうして...?」


俺はそう言わざるを得なかった。

どうしても彼女がこんなことをする理由を

知りたかった。


でないと、今の自分の行いはおろか、

彼女を助けた弟の思いすら無駄になるような

気がしたから。


だが、何度問いても彼女は相も変わらず

答える様子はない。


呆然とする俺に向かって、ナイフに

禍々しい気を纏わせてゆっくりと歩いてくる。

そして、それを俺に振り降ろし―――


「馬鹿者が」


俺の目の前で、ナイフが ガキィッ!! と

何かに弾かれたような音がした。


「ちぃ...、目覚めましたか...」


ヘレンさんが俺の後ろを見て、舌打ち混じりに

発した言葉に、俺も後ろを振り向くと...


「少年、取り乱すのが早すぎやしないか?」


倒れていた邪龍は消えていて、かわりに

白銀の龍が真後ろに居た。


「...え?」


「あれは邪龍が依り代を変えただけに

すぎん。 つまり、あの娘の体は

今現在邪龍の支配下にある」


なるほど、だから急にヘレンさんが

豹変した―――


――って


「...アンタは何者なんだ?」


「我は聖龍ミラージュ。 邪龍こやつ

体を乗っ取られていたのだ」


そう言って聖龍は憎ましげにヘレンを睨んだ。


「娘の目を見てみるが良い。

左右の色が違うことがわかるはずだ」


そう言われてヘレンさんの目を見てみると、

右目は髪の毛と同じ綺麗な青色だったが、

左目は血で染まったかのような赤色だった。


「わかったか? あれこそが憑依した印だ」


そう聖龍が言うと、ヘレンさんは

つまらなそうに目を細め


「なんだ...もうバレたか。

もう少し遊ばせておいてもらいたかった

のだが...バラすのが早すぎるぞ? ミラージュ」


「ほざけ。 貴様の様な外道の思い通りになど

させるわけがないだろう」


邪龍と聖龍。


お互いに睨み合って、まさに一触即発の

状態になっていた。


「しかし聖龍。 何故貴様が生きている?

我は死の間際に依り代を移したはずだ。

貴様が立っていられるはずはない」


確かに、俺はあのとき心臓を破壊したはずだ。

普通は死ぬと思うんだが...。


「言っている意味がわからんな。

心臓など破壊されてもすぐに修復すれば

良い話ではないか」


コイツは何を言ってるんだろうか。


「待て、俺にはアンタの言っている意味が

わからない」


「? 破壊されたからすぐに直しただけ。

簡単なことではないか。

何を疑問に思うことがある?」


「むしろ疑問しか無いんだが!?」


そう言うと、聖龍は少し呆れたかのように

息を吐き


「...まあ仕方の無いことだろう。

我には貴様らには無い、超速再生能力がある

からな」


「なるほど...いや待て、それだと何で俺は

コイツを倒せたんだ? その超速再生能力

なんてあったら...」


「コイツは憑依したばかりの頃は

依り代の力を引き継ぐが、いずれは

姿形、能力、全て自身の物へ塗り替えてしまう。


故に、我の超速再生能力は消えていたという

わけだ。

とはいえ、我は体を乗っ取られても

意識上では抵抗をし続け、どうにか

こやつの破壊行動の邪魔をすることくらいは

成功していたがな。


そして、ようやくこやつが出ていってくれた

お陰で元の力が取り戻せたというわけだ」


「ふん、貴様のせいでひとつの町を

滅ぼすのにも時間はかかるわ、滅ぼしても

そのあと眠って力を蓄えなければ貴様に体を

取られそうになるわ、まったく邪魔な

存在だったものだ...だが」


ヘレンさんを乗っ取った邪龍は、左腕を前に出し


「ふんっ!」


拳を握って力を込めたと思ったら、彼女の腕は

サイズこそ変わらなかったものの、姿形は

邪龍そのものに変化した。


「こやつは意識こそ残っているものの、

抵抗力は弱い...我の力が馴染むのも時間の

問題だ」


つまり、早めにヘレンさんの中に居る

邪龍をどうにかしないとヤバいって

ことか...。


「さて、人間。 貴様はこの娘のことが

大事なんだろう?」


そう言って、邪龍は龍と化した腕を構え


「貴様にこの身が攻撃できるか?」


一気に距離を詰めて龍と化した腕と振るう邪龍


俺はその顔を見て――






――腹に思い切り蹴りを入れた。


「ぐおっ!?!!」


驚愕に満ちた顔で邪龍は吹き飛んだ。

地面に倒れた邪龍は、顔をこちらに向け


「何故だ...何故貴様はこの娘を――」


簡単だ、と俺は前置きしたあと


「目が、そう言ってたんだ」


「目...だと?」


そう言った邪龍の赤い目は醜く歪んでいたが、

もう片方の青い目は優しい目をしていた。


「『これでいい』...そう言いたいんですね。

ヘレンさん...」


彼女は必死に抵抗しようとしていた。

彼女は自分の手で人を傷つけることを恐れていた。


だから、彼女は自分自身を殺して貰って

全てを終わらせることを望んでいるはずだ。


だが


「聖龍さん、どうにかする方法はあるか?」


「我の全力の浄化の力を使えば、どうにか

出来るだろう...ただ、そのためには奴を

一度無力化しなければならん。

抵抗されてしまえばこの術を破られる可能性がある。

念のため我とお前には憑依防止の膜を

貼っておくが、我は浄化の力の充填が必要だ。

貴様とあやつの戦闘には一切手が出せん」


「ああ、それで十分だ」


俺は彼女を絶対に死なせるつもりはない。


かといって、邪龍のモノにさせるつもりもない。


中の邪龍だけを討つ。


絶対にヘレンさんを守る。


「行くぞ邪龍、かかってこい!」


「舐めるなよ...人間風情がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


両手両足を龍の物へと変化させ飛びかかってくるが、

人間の体にはまだ慣れていないのか、動きが

ぎこちないのがわかる。


故に、攻撃を避けてカウンターを決めるのは

簡単だった。


当然、彼女の体を攻撃をすることに抵抗が

無かったわけではない。


いままでに女性に暴力を加えたことは

もちろん無く、こんなことは正直したくは

なかった。


だが、今遠慮してしまえば、彼女は一生戻っては 来ない。


辛いが、やらなければならない。


「ふん!!」


邪龍の繰り出した拳を避け、カウンターを

決めようとした。


「これで...!」


が、その拳の先にあったのは、彼女の顔だった。


(あ......)


一瞬、ほんの一瞬だけ、俺は躊躇してしまった。


顔は女性の命とも言うし、おいそれと

傷つけられるようなものではなかった。


遠慮しないと決意したばかりなのに、俺は硬直し


それを察知しないほど甘い邪龍ではなかった。


邪龍の腕は俺に迫り


「ごっふ...!?」


邪龍の左手が俺の体を貫いた。

傷口からは血が流れ、喉からも鉄臭いものが

登ってきた。


「かはっ...!」


吐血した俺を見た邪龍の喜んだような赤い目

とは反対に、青い目は驚愕と罪悪感に満ちた

雰囲気を醸し出していた。


「さて...ではトドメと行こうか」


邪龍は右手を開いた。


「このまま頭を掴み、握り潰してやろう」


段々と近付いてくる右腕。


体に力が入らない。


後ろの聖龍は充填中で手出しは不可能。


(万事休す...か)


そして、手が俺の顔を触れるかといったところで


ピタリと、腕の動きが止まった。


そして、俺は気がついた。


彼女の青い目が、強い光を持っていることに


「...貴様、人間の分際でこの私に抵抗

するかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


邪龍が声を荒げ、顔の左側の一部が龍と化した。

それほどまでに力を入れているのだろうが、腕が動く様子はない。


ヘレンさんがこんなにも頑張っているという

のに、俺は...!


「ならば!」


邪龍は俺を貫いていた左手を引き抜いた。

それと同時に血が溢れだし、激痛が走る。


「こちらの腕で殺すまでよ!」


俺はその腕の軌道を見据え、避けた。


そして俺はそのまま懐に入り込むと


驚愕に満ちた赤い目と、慈愛に満ちた青い目が

見えた。


「一発...すみません!!」


その顔を...正確には龍化して鱗が付いている部分に俺は

一撃をぶちこんだ。


パキン と殴った部分の鱗が割れる音が聞こえ、邪龍は

そのまま地面を転がると、ピクリとも動かなくなった。


「はぁっ...はぁっ...」


ようやく、これでケリがついたようだ。


「...あれ? そういえば...」


思えばほぼ全力で殴っちゃったしヘレンさんは

怪我とか大丈夫だろうか?


「安心しろ、その娘は脳震盪で気絶しただけだ。

鱗の耐久力が無ければ顔が吹き飛んでいたかもしれんがな」


聖龍はいつの間にか俺の真後ろまで

近付いてきていた。


「聖龍さん...充填終わったのか?」


「ああ、今から娘を浄化のしてやる、が...」


「が?」


「我と邪龍は同等の存在、故に存在を

完全に消すにはそれ相応の力が必要になる」


「...つまり?」


「事が終わればわかる、お前はもう休んでいろ」


そう言って聖龍はこちらを手を向けた。


傷が癒えていく柔らかい感覚と共に意識が

遠退いていく。


目を閉じる直前、聖龍がどこか優しげな表情を

しているかのうように見えた。

展開早すぎた感満載。

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