賭け
「……く、そ……」
無防備に蹴りを食らってしまった俺は一瞬意識が飛びそうになったが、なんとか堪えることが出来た。
だが、このままじゃ勝ち目なんてない。このまま耐え続けていてもいずれやられてしまうだろう。
「もう諦めろよ。今まともに戦えるのはお前だけだってのに、そのお前が何も出来ないんじゃどうしようもないだろ?」
「うる、せぇ……!」
負け惜しみと言わんばかりにテスタへ攻撃をしたが、テスタは涼しい顔で難なく俺の攻撃を避けていく。
「やっとやる気になったか。だが、攻撃にまるで力が入ってないぞ?」
テスタは俺の拳を片手で軽々と受け止めると、もう片方の腕を引き、
「これぐらいやってくれなきゃな」
俺の攻撃とは比べ物にならない重さとスピードで、拳が飛んできた。
「がふっ!?」
あまりの威力に倒れそうになるが、足に力を入れて何とか踏みとどまり、再びテスタへ攻撃を仕掛けた。
だが、テスタは俺の攻撃を避けたり受け流したりして、攻撃が当たる気配がない。
それに比べ、テスタがときおり放ってくる攻撃は俺に必ず命中し、そのたびに俺は歯を食いしばって耐えていた。
かわされて攻撃される。受け流されて攻撃される。そんなやりとりが何度も続き、テスタは段々と呆れたような表情になってきた。
「何度も何度も……そんなんじゃ無駄だってわかんねぇのか。お前は」
「ぐぁっ!!」
ついにテスタの攻撃に体が耐えきれなくなり、俺はその場に倒れてしまった。
「……所詮こんなもんか。でも、人間にしてはよくやった方だろ」
まるでもう勝負はついたと言わんばかりの言葉に、俺はテスタを睨み付けるように見上げて、立ち上がろうとした。
「まだ、終わって……」
「いや、もう終わりだ。これ以上やっても無駄だしな」
そう言って、テスタは拳に禍々しい何かを纏うと、そのまま俺に向かって振り下ろした。
「『縛れ』!!」
が、俺は咄嗟にツタを出し、テスタの腕と体の動きを止めた。
「チッ! またこれか! だが、こんなものはすぐにどうにか出来る! その間にお前が出来ることなんてたかが知れている!」
テスタの言葉をよそに最後の力を振り絞って立ち上がった俺は、テスタに向けて拳を振り上げ、そして――。
「……あ?」
握っていた首飾りをテスタに着けた。
流石に予想外のことだったのか、テスタは目を丸くしていた。が、すぐにテスタは納得したような表情をして、
「ちっ、こりゃ魔除け効果のあるお守りか? 付けてるだけで気分が悪い。大方これで俺の弱体化を狙ったんだろうが――」
言いながら首飾りを外そうとするテスタの手を、俺は強く掴んだ。
「いいや、違う。それは魔除けなんかじゃない。――リンクさん!!」
俺が呼び掛けると、リンクさんが地を這いながらもテスタの足をガッと掴んだ。
「な……!? お前、いつの間にここまで……!? いや、だがお前の魔法は俺には――」
「確かにリンクさんの魔法だけじゃ効かないだろうな。でも、さっきも言ったがその首飾りの効能は魔除けなんかじゃない。付けている本人の精神を安定させるものだ。そして、少しでも影響が出ているということは、その首飾りがイルビアの中からお前を引きずり出そうとしてるんだろうな。つまり今、お前とイルビアは同一のものでは無くなっているはずだ。それなら、首飾り単体ではお前を追い出せなくても――」
「――ッ! まさか!」
「分離!!」
今度こそ、リンクさんの魔法が発動した。




