邪神への反撃
時間は少し前に遡る。
「ーーなるほど、大体状況は把握しました」
前に俺たちと一緒に非常識な存在と戦ったことがあるからか、リンクさんは突拍子もない俺の話をあっさりと信じてくれた。
リンクさんのことをあまり知らないファルとヘレンさんにはルリに説明を頼み、俺はリンクさんと話していた。
「それで、私に何をしてほしいんですか?」
「イルビア……俺の妹と邪神を分離してほしいんです」
「あっははは……ですよねぇ……」
リンクさんは何か諦めたような表情をしていたが、俺の方を見て溜め息をつき、
「わかりました。手伝いましょう。でも、そんな恐ろしい相手に近づけるほど私の身体能力は高くありませんよ?」
「ありがとうございます。あと、その点については考えてあります」
「聞かせてもらいましょう」
「まずリンクさんには隠れてもらって、俺たち三人が邪神に攻撃を仕掛けます」
「ふむふむ」
「そして隙を見計らって、俺がこのツタで拘束します」
そう言いながら、俺は黄金のツタを一本生やした。
「おお……これはまた随分と……しなやかながら丈夫ですね……」
興味深そうにリンクさんはツタに触れ、感心していた。
「まだ完全には扱いきれませんし、邪神にはすぐ破かれると思います。でも、リンクさんが邪神に近づく時間は稼げるはずです。少しだけ……ですけど」
「つまり、その僅かな時間で私は邪神に触れて魔法を発動させれば良い……そういうことですか?」
「そういうことです」
肯定すると、リンクさんはげんなりとした表情になり、
「相変わらずハードな作戦ですね……。一応言っておきますが、間に合う保証はありませんからね?」
「いえ、妹を救える可能性が0だったときに比べれば上等ですよ」
「フフッ。そうですか」
そうしてリンクさんと話し終わったあとに、俺は三人とテスタをどう攻撃するか話し合った。そして今ーー。
「……やった」
作戦は成功し、リンクさんはテスタに魔法を使うことが出来た。
テスタの体は糸が切れたようにだらりと力が抜け、俯いていた。
これでイルビアの体からテスタを追い出すことがーー。
「そんな…………はずは…………」
リンクさんは表情を青くして、そう呟いた。
「……リンクさん?」
何があったのか訪ねようとしたそのとき、テスタが追い出されたはずのイルビアの肩が震えだした。
そして、俯いていた顔を手で覆うと、
「ははははははは! 何をするかと思ったけど何ともないじゃねぇか! 焦って損したぜ」
「な…………っ!?」
その言葉に、俺はもちろん三人も驚きを露にしていた。
「アルさん、駄目です! 私の魔法が妹さんと邪神を別々の物だと認識してくれません! 恐らく二人は今、完全にひとつの存在になってしまっています!」
「んな……嘘だろ!?」
だが、事実としてテスタとイルビアは分離されていない。
リンクさんの言う通り、二人は完全に同一の存在になってしまっているのだろう。
「邪魔だ。離せ」
「がはっ!?」
「リンクさん!!」
テスタが軽くリンクさんを払いのけただけで、リンクさんはまるで魔物の突進を食らったかのように吹き飛ばされた。
「残念だったな。さっきも言ったが、お前ら兄妹の体は他とか比べ物にならないくらい馴染むんだ。ましてやイルビアは小さい頃から俺の力を体に宿している。それなら、同一の存在となるのも不思議じゃないだろう?」
くそっ……。やっぱり、イルビアを助けるには倒すしかないのか……?
「甘いんだよ。お前は」
そう言いながら、テスタは目にも止まらぬ速さで俺に蹴りを放ってきた。
「ごはっ!?」
「「「アル(君)!」」」
三人が同時にテスタへ攻撃しようとするが、テスタは溜め息をつき、
「お前らは邪魔だ。そこで黙ってろ」
指を鳴らした。ただそれだけで、三人が同時に地へ伏した。
「きゃっ!?」
「な、何、これ……」
「体が……重……い……」
何らかの方法でいとも容易く三人を無力化したテスタは、倒れている俺の前まで近づいてくる。
「さっき俺を殺す『覚悟』を決めたってのは本当みたいだが、殺さずに済むかもしれないという希望が見えた瞬間、お前は再び『覚悟』を失ったんじゃないか?」
「ぐっ…………」
歯を食いしばって立ち上がろうとする俺を前に、テスタは歩を止めると、
「もう一度言う。甘いんだよ。お前は……な!!」
そう言って、再度強烈な蹴りを放った。




