偶然の幸運
はぐれた二人と合流するのに、それほど時間はかからなかった。
どうやら俺たちよりも先にルリとヘレンさんは合流していたようで、むこうも俺たちのことを探していたらしい。
二人ともほとんど怪我はしておらず、むしろこちらが心配されたくらいだった。
「でも良かった! 二人とも無事で!」
「ああ。かなりぶっ飛ばされてちょっも気絶したけどな」
「それは……大丈夫、なのかしら……」
「恐らく脳震盪が原因で頭痛が起きましたが大丈夫です。はい」
「それほんとに大丈夫なの!? ねぇ!」
ルリに心配されたが、俺は大丈夫だと伝えると、納得のいってなさそうな顔でルリは引き下がった。
「ところで、どうやって邪神と戦うの? 手を抜かれているとはいえ、今の状況じゃ勝つのはかなり厳しいと思うのだけれど」
「そうだよね。最悪一旦退くことも考えた方が……」
「いや、倒すならテスタが油断してる今しかない。それに、テスタと次に会ったときは俺も戦いに参加するつもりだ」
俺の言葉に、ルリとヘレンさんは目を見開いた。
「アル君……本気?」
「はい。さっきまで任せきりだった自分が情けないってのもありますけど……兄として、イルビアの想いを無駄にするわけにはいかないんです」
「……ほんとに、やるの?」
「ああ。妹の最後の願いを聞いてやるのが俺の役目だしな。覚悟は出来てる」
俺の言葉に、二人は先程のファルと同じように少し暗い表情を見せた。
「ごめんねアル君、私たちの力が足りないから、アル君に辛い思いをさせることになっちゃって……」
「そんなことないですよ。むしろ、これで良かったんです」
「良かった……?」
ルリの言葉に俺は頷くと、
「ああ。もしあのまま三人でどうにかテスタを倒せていたなら、俺はイルビアの事から目を背けたままになってたと思うんだ。……でも、それじゃいけないんだ。兄として、アイツの最後を見届けなくちゃならない。他の誰でもない。俺がやらなくちゃいけないんだ。さっきまでの俺はそれがわかってなかった」
『だから』と俺は続け、三人に頭を下げた。
「イルビアを止めるために、力を貸してくれ」
俺がそう言うと、誰かの溜め息が聞こえた。
「力を貸すなんて当たり前でしょ? 僕たちは邪神を止めるために来たんだからね」
「そうね。それに、いつもアル君には助けてもらってるんだから、それくらいお安いご用よ」
「イルビアちゃんのためにも、頑張らなきゃね」
「……皆、ありがーー」
礼を言おうとしたそのとき、ガサリという音が聞こえた。
その場に居た全員の視線が瞬時に音の出所へ向き、いつでも戦える構えを取った。
だが、音のした方向から来たのはテスタではなかった。
「……おや? そこに居るのはアルさんとルリさんですか?」
「……リンクさん? どうしてここに……?」
「なんでも、最近この森の近くにあるシルス村から怪しい気配がすると聞きましてね。学者として何か新しい発見があるかもしれないと思うと居ても立ってもいられず来てみたんですよ」
「なるほど……。でも、すぐにここから離れた方が良いですよ」
「へ?」
何もわかっていないリンクさんに、俺は今の状況をいくつかかいつまんで説明し、ここに留まるのは危ないということを伝えた。
「……えっと、つまりココには目新しいものはどこにもなくて、むしろかなり危険なところと化している……ということですか?」
「そういうことです。なのになんでこんなとこに来ちゃったんですか?」
「そんなこと知らなかったからですけど!?」
「そうですか。何はともあれ早くここから退散することをオススメしまーー」
……いや、待てよ? 確かリンクさんの使う魔法ってーー。
「……な、なんですか? どうして途中で言葉を止めるんですか?」
困惑しているリンクさんに、俺は一言告げた。
「……すいませんリンクさん。ちょっと手伝ってもらえませんか?」
俺がそう伝えたとき、リンクさんの目は死んでいた。




