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重い覚悟

「アル君!! 大丈夫!? 起きて!!」


 大きな声で呼ばれながら肩を揺さぶられたのを感じた俺は、ゆっくりと上半身を起こした。


 視界に広がっていたのは先程までいた開けた場所ではなく、鬱蒼とした森の中だった。


「結構飛ばされたみたいだな……」


「良かった! 大丈夫? 怪我とかしてない?」


「ああ、大丈夫ーー」


 答えようとしたとき、不意にズキリと頭が痛み、俺は頭を抑えた。


「いってて……ファル、無事だったか……?」


「私はアル君が守ってくれたから大丈夫だけど……でも、アル君は……」


「多分軽い脳震盪だろうし、大丈夫だ」


「そ、そう……? ならいいんだけど……」


「ところで……」


 俺は立ち上がると、周囲を見渡した。


「俺はどのくらい意識を失ってたんだ? あと、どれくらい飛ばされたんだ?」


「えっと……アル君が気絶してたのはほんの数十秒くらいだよ。飛ばされた距離はあんまりわからないけど、少なくとも邪神の姿が見えづらくなるくらいには……」


「数十秒か……。ならそれなりに飛ばされたとはいえ、そろそろテスタが追い付いてくる時間だと思うが……」


「それなら心配無いよ。向こうは歩いてこっちに向かってきてたし、私も飛ばされた地点から移動したから、すぐには私たちの位置を特定出来ないと思う」


「なるほどな、それなら…………ん?」


「どうしたの?」


「えっと、ファル。今、移動したって言ったか?」


「うん。それがどうかしたの?」


「凄いどうでも良いこと聞くけど……俺のこと、どうやって運んだんだ?」


「お姫様抱っこだけど?」


 それを聞いた俺は膝から崩れ落ちた。


「な、何!? どうしたの!? どこか痛むの!?」


「い、いや……。大丈夫だ……」


 どうやら気絶している間に男としてのプライドが失われていたらしい。


 い、いや。でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 この状況をどうにかする策を考えないと……。


「……まずは二人と合流しないとな……。どっちかが一人の時にテスタと遭遇しちまったら勝ち目がないだろうし……」


「そうだね。逃げてきた方向的に考えたら邪神はあっちから来るだろうから、とりあえずこっちに進んで二人を探そっか」


「ああ」


 テスタは探そうと思えばすぐに俺たちを見つけ出せるだろう。だが、テスタは慢心しているため、そうしないはずだ。


 テスタに付け入る隙があるとしたら、そこだけだ。


 倒すのなら、今しかない。もし慢心するのやめてしまえば俺たちに勝ち目はないだろう。


 そうなってしまえば、イルビアの想いが、行動が、全て無駄になってしまう。イルビアの気持ちに応えるためにも、俺はーー。


「ーーファル、俺決めたよ」


「へ?」


「皆で合流して、またテスタと戦闘が再開したら……そのときは、俺も戦いに参加する」


「!? でもっ!!」


「イルビアの最後の願いなんだ。アイツだって生半可な気持ちで俺に頼んだわけじゃない。なら、兄として、やらなきゃいけないんだ。妹だから手を出せないとか、俺のために動いてくれてたからとか、そんな言い訳をしてたらイルビアの気持ちを踏みにじることになる。イルビアは散々苦しい思いをしてきたんだ。だからーー俺が、終わらせる」


 ファルは一瞬悲しそうな表情をしたが、『そっか』と呟き、


「辛いけど、イルビアちゃんを止めてあげなきゃね」


「ああ」


 覚悟を決めた俺だったがその足取りは軽いものではなく、隣を歩くファルの表情も、心なしか暗いものになっていた。

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