邪神の正体
「まさかそんなに驚いてくれるとはな。隠し続けた甲斐があったってもんだ」
くつくつと笑いながらそう言ったテスタを見て、俺は再び拳を強く握った。
「いつからだ……?」
「あん?」
「いつからテスタのふりをしていた!? 本物のテスタをどこにやった!!」
テスタは何を言っているのかわからないと言った表情をしていたが、やがて意味を理解したらしく、そのまま笑いだした。
「あっはっはっは! アル、お前は大きな勘違いをしてるぞ?」
「……どういうことだ?」
「大方、お前は俺がテスタの体を依り代にしているか、もしくはイルビアがお前の母に成り代わっていたように、俺もテスタに成り代わっているかのどちらかとでも思ってるんだろ? だけど、それは違う」
「……じゃあ」
「ああ。俺は最初から俺だ。小さい頃からお前が俺の依り代としてふさわしい身体になるよう、色々と手引きしてたんだ。だから、テスタなんて少年はーー最初から存在しない」
「……」
あまりにも衝撃的なことに、俺は声も出なかった。
今まで幼馴染みであるとともに親友だと思っていたテスタの正体が敵であるだなんて、想像すらしなかった。
「くくっ。俺の企みが成功してお前のステータスが常人の数百倍になったときはついニヤケちまったよ。ようやく俺に相応しい器が完成したって、本気で喜んだんだぜ?」
聞いてもいない話を、テスタは楽しそうに続け、
「だけど、まさか依り代にする前にあの忌々しい善神にお前を取られるとは思わなかった。おかげで俺の計画がパーだ」
テスタはそう言いながらわざとらしく悲しそうにした。
「残念だよ。善神の力がお前に流れてて。そのせいで殺してもお前の身体に取り憑くことが出来ないんだからな」
テスタはイルビアの肩に手を置き、
「だが、俺にはイルビアが居る。コイツも、お前ほどじゃないにしろ優秀な依り代だ。」
「っ!? お前、イルビアに取り憑くつもりか!?」
「そうだ。本当ならお前の身体を依り代にすることが出来れば一番良かったんだが、コイツでも十分だ。もしお前を依り代に出来ない場合はそうすると決めていたし、コイツだってそれをわかった上で動いてた」
「……ってことは……」
今までの、辻褄の合わない行動はーー。
「……理解したみたいだな。そう、お前が善神の力を完全に拒否して俺の力を求めるよう仕向ければ自分が依り代にならずに済んだってのに、コイツはわざわざ自分から俺の依り代になろうとしたんだ。お前のためにな」
「イルビア……。なんで、そんな……」
イルビアは俯いたまま、何も答えなかった。
「お前の事を想ってるからだろうよ。じゃなきゃさっきみたいに『私を殺して』なんて言えないはずだ」
「だ、だけどそんな大人しく依り代になる必要はないだろ!? せめてテスタから逃げたり、俺にそのことを教えることだってーー」
「無理だ。さっき俺の力は弱体化してるとは言ったが、"自分から俺の力を受け入れた者"になら本人の意思を無視して強制的に命令するくらいのことはできる。ま、上手いこと俺の命令に反しない範囲でお前を依り代にすることは避けたみたいだが……俺から逃げたり直接的にお前の助けになるようなことは出来ない」
「くっ……。どうしてイルビアはお前みたいなやつの力を受け入れちまったんだ……」
「ああ。コイツは長生きしてお前ともっと一緒に居たいっていう一心で俺の力を受け入れたんだ。皮肉なことに、兄と一緒に居るために求めた力が兄を苦しめることになってるけどな」
そう言いながら笑みを浮かべるテスタに、俺は殴りかかった。
「おっと! あぶねっ!」
テスタは間一髪のところで俺の攻撃を避けたが、イルビアから遠ざけることは出来た。
「まさかいきなり殴りかかってくるなんてな。そんなに怒らなくてもいいだろ?」
「いいや、イルビアに憑依する前にお前を倒せば解決だって気付いだけだ! イルビアには近付かせない!」
俺がそう言うと、テスタは呆れたようにため息をついた。
「……はぁ。アル、俺の話聞いてたか? 別に俺が近づく必要はないんだぞ? イルビア、『来い』」
テスタが呟いただけで、イルビアは一瞬でテスタの元へと行ってしまった。
「しまっーー! イルビア! 逃げーー」
「憑依」
テスタは霧状になってイルビアを包み込み、イルビアがそれに抵抗することなかった。
霧が晴れたそのときにはテスタの姿はなく、目付きが若干テスタのようになったイルビアが笑みを浮かべながら立っていた。
「ーー憑依完了」




