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1つしかない

 明日の準備が終わり、夕飯も食べ終わったところで、俺はファルに声をかけた。


「よし。明日に備えて、今日は早めに寝とくか」


「そうだね」


 俺は布団を敷くと、ファルをそこへ招き、


「よし、じゃあファルはここで寝てくれ」


「アル君はどこで寝るの?」


「俺は……まあ、うん。適当なとこで寝るよ」


 目を逸らしながら言うと、ファルはその反応で察したのか詰め寄ってきて、


「……もしかして、一組しか布団が無いの?」


「うぐっ……」


「図星っぽいね……」


 そう。俺の家には布団が一組しかなく、誰かを泊めようものならどちらかが床で寝るはめになるのだ。


 別に誰かが泊まることなんてないだろうとタカをくくっていた結果がこれだ。


 こんなことなら素直に買っておけば良かった。


「で、でも別に俺は床でも全然寝れるから大丈夫だ。だからその布団はファルが使ってくれ」


「駄目だよ! 万全の態勢で行くんだったらちゃんと布団で寝なくちゃ!」

 

「確かにそうだけど……それはファルも同じだろ?」


「うん。だから一緒に寝よ?」


 ……はい? 今なんて言った? 


「悪い。うまく聞こえなかったからもう一回……」


「一緒に寝よう?」


 なるほど。さっきのは聞き間違いでも幻聴でもなかったわけか。


 ……いやいやいやいやいや!


「流石にそれは駄目だろ!? そもそもどうしてその結論に至った!?」


「二人が布団を使える方法はこれしかないかなって」


 発想が安直すぎる。


「それにアル君が床で寝てる中、私だけ布団で寝るなんて無理だよ。気になってむしろ疲れちゃうもん」


「ぐっ……! で、でも俺は男だし、何かの間違いで襲っちゃう可能性もあるだろ?」


「え? そうしてくれると既成事実が出来るからこちらとしてはむしろ万々歳なんだけど……」


「……」


 確実に逃げ道を塞いでくる。


 駄目だ。勝てねぇ。 

 

 降参した俺は、渋々ファルと一緒に寝ることを承諾した。





「……や、やっぱり、ふた、二人だと布団がち、小さく感じるね……?」


「……そ、そう、だな……」


 現在、俺とファルはお互いに外側を向いて布団に入っていた。


 ついさっきまで滅茶苦茶元気だったファルだったが、布団に入った瞬間、急にしおらしくなってしまった。


 なんでこのタイミングで大人しくなるんだ。さっきの元気を取り戻してくれ。


「……えい」


「おひゃあ!?」


 いきなり指で背中を撫でられた俺は、思わず変な声が出てしまった。


「ふふっ……『おひゃあ!?』、だって……」


「突然やられたら誰だって驚くだろ……」


 俺の言葉には返事せずに、ファルは俺の背中を触り続けていた。


「……あの、ファルさん?」


「……アル君の背中、おっきいね」


「そうか? 毎日母さんからの暴行を受け続けた強靭な肉体を持つ父さんに比べればまだまだ小さいほうだと思うぞ?」


「それでも、私はこの背中がいいの」


 そう言って、ファルは俺の腰に手を回して抱きついてきた。


「……えっと、ファルさん?」


「ふふっ。当ててるんだよ?」


「まだ何も言ってないよな!?」


 でも実際当たってるからやめてくれ。理性を削りにくるんじゃない。


「……あのね。私、怖いの」


「……怖い?」


 話が真剣なものになったのを感じた俺は冷静になり、ファルの話に耳をかたむけた。


「うん。明日、邪神と会うんでしょ? 無事に皆で帰ってこれるのかなって考えると、何だか怖くて……」


「気持ちはわかる。俺も怖いし」


「え?」


「誰かが死んでしまうかもしれないし、もしかしたら俺も死ぬかもしれない。そう考えると怖いよ。でも、だからこそ常に本気でやろうって思うんだ。あのときこうしておけば良かったって後悔しないように」


「アル君……」


「怖さなんかに負けてたら何も出来ないしな。だから俺はーー」


 そのとき、腰に回されていた手の力が突然弱まった。


「……ファル?」


 チラリと後ろを見ると、ファルは規則の良い寝息を出していた。


「……安心して寝てくれたのか、それとも俺の話が長ったらしすぎて寝たのか……」


 ……前者だろう。きっと、おそらく、多分。

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