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事後申告

「……マジで言ってるのか?」


「うん。だって他に泊まるところないもん」


 冗談かと思ったが、ファルの表情を見る限り嘘をついているようには見えない。


「俺まだ一言も聞いてなかったんだが……?」


「だってもしアル君に言ったら、絶対さっき4人で話したときにそのことを言ってたよね?」


「そりゃそうだろうけど……駄目なのか?」


「駄目なのかって…………。はぁ……」


 ファルは呆れたように溜め息をついてジト目になると、


「アル君ってほんっっっとに女心がわからないんだね。そんなんじゃいつか後ろから刺されちゃうかもよ?」


「女心読めないと刺されるのか!?」


「うっさいばーか」


「なんで俺罵倒されてんの?」


 明日までに万全の状態にしとかなきゃいけないのに精神的なダメージ与えにくるのやめてほしい。


「……別に」


「ん?」


 ファルは顔を俯かせると、


「別に私を泊めるのが嫌だったら……断ってくれても全然良いんだよ?」


「……断るわけないだろ。今の王都の状況で、女の子を夜に一人放っておいたら心配でむしろ眠れないだろうしな」


「だよね! アル君ならそう言うと思ってた! じゃあお言葉に甘えて泊まらせてもらうね!」


「変わり身早すぎんだろオイ」


 良く見ると、ファルはイタズラっぽく舌を出していた。


 なるほど確信犯か。さては言質取りに来たなコイツ。


 まあ断るつもりが無いってのは事実だし、別に構わないんだけどな。


 そのまましばらくファルと他愛の無いやりとりをしながら歩いていると、自宅が見えてきた。


 改めて見てみると、他の建物のほとんどが半壊もしくは全壊しているというのに、俺の家だけがまったくの無傷だというのは中々奇妙な光景だった。


 本当にイルビアが意図的に残してくれたんだとしたら、俺は――。


「……今考えることじゃないか」


「どうかしたの?」


「いや、なんでもない」


 今は休むことが先決だ。身体と精神の両方とも明日までに万全の状態になっておかなきゃいけないしな。


 そんなことを考えながら家の鍵を開けると、ファルが俺よりも先に家へと入った。


「お邪魔しまーす!」


「おい、ちょっ!?」


 止める間も無くファルは家へ上がり込むと、そのまま居間の方へと入っていってしまった。


 ……ま、別に見られて困るような物はないし、別にいいか。


 俺はゆっくりと居間に向けて進みだし、ファルより十数秒ほど遅れて部屋に入ると、ファルが笑顔で座りながらこちらを見ていた。


「お帰りなさいアナタ。ご飯にする? お風呂にする? それともワ・タ・シ?」


「お前それがやりたかっただけだろ」


「ご飯にする? お風呂にする? それとも――」


「お茶にする」


「酷い!?」


 ファルはわざとらしくよよよと崩れ落ちると、作ったような涙目で俺を見た。


「私……一度くらいこういうことやってみたかっただけなのに……」


「盛大にやるタイミング間違えてんぞ」 


 むしろ何故このタイミングでやろうとしたのか。


「ううん。むしろ大成功かな」


「え?」


 どこに成功した要素があった? 明らかに大失敗としか思えないのだが。


「アル君、さっきまでずっと顔が固かったでしょ? でも、今は少し柔らかくなったかなって。緊張しすぎは良くないよ?」


「……そ、そんなに固い表情してたか……?」


「じゃなきゃこんなこと言わないよ?」


 もしかして、こんな事態なのにいつもよりファルがふざけてたのは、俺の為……なのか?


「……ありがとな」


 俺がそう言うと、ファルはニコリと笑みを浮かべた。


「お礼は婿入りで良いよ?」


「お前やっぱ帰れ」


 一瞬でもまともに感謝した俺が馬鹿だった。

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