作戦会議
あのあとルリとヘレンさんと合流し、先ほどの出来事を説明した。
一通り話し終えると、ルリは何か思い出したのかハッとした。
「シルス村……。そこって確かアルの故郷だよね?」
「そうだな。よりにもよって何であそこに俺を呼ぶんだ……?」
「多分、アル君の故郷自体を人質に取ってるって言いたいんじゃないかしら。そうすることで逃げられなくするために」
「まあ……それしかないですよね……」
恐らくヘレンさんの言う通りだろう。名前も知らない俺とは関係の無い村ならまだしも、故郷を人質に取られては向かわざるを得ない。
邪神はそう考えて、俺をシルス村に呼び出した。そういうことだろう。
「でも、イルビアちゃんの話からすると今すぐシルス村に行かなくても大丈夫だと思うし、ここは一旦休んで万全の態勢で行くのが良いと思うな」
「そうだな。…………でも」
「……? 何か問題でもあった?」
不思議そうに聞いてくるファルに、俺は溜め息をつきながら
「いや、今の王都に休める場所なんてあるかなぁって……」
「あ…………」
ファルはようやく合点がいったようで、俺と同じように溜め息をついた。
そう、今の王都は建物がたくさん破壊されていて、無事な建物の方が少ないくらいだった。
俺の家だって壊れているかもしれないし、ルリやヘレンさんの家
も例外ではない。
「……とりあえず、各自自宅を確認してきましょうか。そのあと、どうするか決めましょ?」
ヘレンさんの提案に全員が頷くと、一時間後にまた同じ場所に集合という約束をして一旦別れることになった。
唯一ファルだけは確認する必要がないと言い、俺に着いてくることになった。
「アル君の家は大丈夫かな?」
「どうだろうな。ま、大方の建物が壊れてるし、運良く俺の家が残ってる可能性は低いだろうな」
「そう? イルビアちゃんなら残しておくと思うけど」
「イルビアは俺の家の場所なんて知らないだろ? だからそんなの関係無しにーー」
瞬間、自分の目を疑った。
周囲の建物が半壊及び全壊している中、俺の家だけは無傷のまま今も建ち続けていた。
「…………ねっ?」
「実は主犯なんじゃないかって勘繰られるほど綺麗に残ってんな……」
ってか俺の家だとわかって残しておいたんだとしたら、ウチの住所はすでに漏洩してるってことか。
「俺にはプライバシーが無いのか?」
「……無いんじゃないかな?」
無いのかよ。肯定しないで否定してほしかった。
「……ま、それは置いとくとして、これくらい立派に残ってんなら家の中まで確認する必要もないだろ。少し早いけど集合場所に戻るか」
「うん!」
何故かさっきより上機嫌のファルと共に、俺は自宅を後にした。
集合場所についてしばらく待っていると、ルリ、ヘレンさんの順でほぼ同時に戻ってきた。
「おかえり。家はどうだった?」
「僕の家は壊れちゃってたよ。でも、野宿は得意だし平気平気!」
それは平気の範疇に入れても良いのだろうか。
「私の家も壊れちゃってたわ。でも幸いなことにギルドは壊れてなくて、職員専用の部屋がひとつ空いてたから、そこで休めることになったわ」
「職員専用……? あのギルド、そんな部屋あったんですね」
「ええ。受付嬢には遠い町からここまで出てきてる人も居て、そういう人達が住み込みで働けるように部屋が用意されてるの。念のためなのか布団は2組あるし、窮屈なく過ごせると思う」
「なるほど」
それなら一安心だ。俺の家は無事だが、布団が1セットしかない。故に3人全員泊めるのは難しいと思っていたところだ。
これなら俺の家とギルドの一室にそれぞれ2人1組で別れれば問題なさそうだな。
俺は布団無くても大丈夫だし。
「アルの家はどうだったの? ……やっぱり、壊れてた?」
「そう言えば言い忘れてたな。俺の家は無事だ。だからーー」
「私も泊まる場所が見つかったから、ルリちゃんはヘレンさんと同じ部屋で休ませてもらったらいいんじゃないかな?」
一人くらいなら面倒見れるぞ、と言いかけていたのだが、ファルによってそれは阻まれた。
ってか、ファルに泊まる場所なんてあったか?
俺が疑問に思っている間にも、ルリは『そうだね』と呟き、
「というわけで、悪いんだけど僕を泊めてもらえないかな?」
「もちろんいいわよ。こんな状況だし、遠慮しないで?」
「うん! ありがとう!」
……まあ、本人が泊まる場所があるって言ってるなら別に良いか。
「じゃ、今日はもう疲れただろうから解散しよう。明日はシルス村に向かうつもりだから、万全の態勢で来てくれ」
皆が頷いた後、俺が別れの挨拶をしたのをきっかけに、その場は解散となった。
ルリはギルドへ向かうヘレンさんに着いていき、俺は自宅へ向かい、そしてファルはずっと俺の後を着いてきていた。
……まさか、な。
「……ファル?」
「ん? どうかしたの?」
「一応聞くけど、お前はどこに泊まるつもりなんだ?」
ファルは俺の質問にニッコリと笑うと、
「アル君の家に決まってるでしょ?」




