これから
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「私は気にしてないし、敬語も様付けも禁止! わかった!?」
「わ、わかりま……わかったよ。ファルさ……ファルちゃん……」
「ヘレンさんも! いいですね!」
「え、ええ……。わかったわ……」
未だにルリとヘレンさんはきごちないものの、なんとか説得出来たようで、ファルはため息をついた。
「二人とも、別に気にする必要ないと思うぞ。王女と言ってもこんなんだし」
「それどういう意味?」
「いや別に敬語や敬称を付けなかったくらいで不敬罪にするようなお方じゃないしむしろお優しい人だということを伝えようとしただけだからその黒い笑みで距離詰めてくるのやめてくださいごめんなさい許してください」
俺がそう言うと、ファルは黒い笑みを収めた。
「まったく、だったら最初からそう言えばいいのに」
「いやだってお前、俺が褒めたら調子乗るじゃん」
「何か言った?」
「イイエ、ナンデモアリマセン」
そんな俺達二人のやりとりを見ていたルリとヘレンさんは、若干呆れたような表情をして、
「あはは……。なんというか……」
「随分、仲が良いのね……」
と言って、苦笑していた。
「……で、これからどうするんだ? ファルの偽物が現れたらしい地点までは来たけど、襲撃者とは出会うどころかどこに行ったのかすらわからないわけだが……」
「うーん。私たちが王都に入ってからは爆発なんて一度も起こってないし、もしかしたら襲撃者は既に王都からは居なくなっている可能性もあるわね……」
確かにその可能性もある。だが、襲撃者がまだ王都に潜んでいて、この後何かしてくる可能性もあるし、だからと言ってこのまま襲撃者を探し続けるというのも不毛な気がするな……。
「それなら、警戒しながら怪我人の救助をした方が良いんじゃないかな? これならもし襲撃者が見つからなくても、僕たちの行動は無駄にはならないだろうし」
「……そうだな。今はそうするしかないか」
でも、4人で固まって救助をするというのは効率が悪い、ここは万が一襲撃者と出会ったときのために、二人一組で行動した方が良いだろう。
「じゃあ、俺とファルで向こうに居る人たちの救助をするから、ヘレンさんとルリは反対側で救助をしてもらっていいか?」
「わかった! ヘレンさん、行こう!」
「ええ。二人とも、気を付けてね!」
「わかりました。そちらも気をつけてください」
俺の言葉にヘレンさんは頷くと、ルリの後を追いかけて行った。
「……よし、こっちも動くか。行くぞ、ファル」
「うん。が、頑張る……!」
そこまで強張る必要はないと思うが……。
俺とファルは今まで来た道を戻るような感じで救助をして行ったが、結局襲撃者と遭遇することは無かった。
一応警戒はしていたのだが、それらしい気配はまったく感じなかった。
「……もしかしたらヘレンさんの言う通りで、もう王都に襲撃者は居ないのかもな」
「うん、そうだと良いんだけど……」
そう答えたファルだったが、その顔色はあまり良いものではなかった。
「……どうしたんだ? 何か思うことでもあったか?」
「えっと、その、お父さんは大丈夫かなって……」
「……そう言えば、王宮はかなり酷い有り様だったな……」
あの惨状だと、王様も無傷では済まなかっただろう。最悪、亡くなっていることも考えられる。
「……見に行くか?」
「ううん。王宮の入り口はさっき見たとき厳重な警備体制になってたし、今私が行っても、多分入れないだろうから……」
「……そっか」
警備をしている兵士たちは今回の事件をファルが起こしたと思っているだろうから、もしファルが正体を明かして真実を話しても、信じてもらえないどころか拘束される可能性もある。
そう考えると、ファルが今王宮に行くのは避けた方が良い。
「だから今はこれからどうするか考えようよ。一先ずあの二人と合流するとか――」
「ファル様……なのですか?」
ファルの言葉を遮るように、メイド服を着た女性がこちらに近づいてきた。
着ているメイド服はボロボロになっており、その女性はところどころ怪我をしていた。
「アルビイ……さん?」
アルビイさん……確か、ファルがマルーン街に行ってる間にファルの影武者になってくれていた人、だったか?
アルビイさんは恨みのこもった表情でこちらに近づいてきて、ファルの両肩を掴んだ。
「ファル様! どうしてこのようなことを……!」
「ちがっ……! これは私じゃなくて……!」
「ですが私は見たのです! 貴女がこの街を破壊する様を! あの姿は……貴女以外には有りえな――!」
「そこらへんにしてくれ」
俺はアルビイさんの肩を掴むと、ファルからアルビイさんを離した。
「っ! 邪魔をしないでください! この人は、この街を破壊した犯人で――!」
「何言ってるんだ? それを決めつけるのは貴女が一番有り得ないはずだろ?」
「何を……!?」
「貴女はファルが俺とマルーン街に行ったのを知っていたはずだ。だから貴女はファルの影武者をしていたんだからな。そんなときにファルが突然現れて王都を破壊し始めたのなら、まずはこの状況はおかしいと思うはずだ。特に、変装が得意な貴女なら″誰かがファルに化けて王都を破壊している″と考えついてもまったくおかしくはない」
「た、確かにそうですが、それは貴女の決めつけで――!」
「なら、どうして彼女がファルだとわかった? 今ファルは認識阻害の指輪を装着している。余程のやり手でもないと正体はわからないと思うが。……それとも、最近のメイドさんはそういうのが得意なのか?」
俺がそう言うと、アルビイさんの口元が歪んだ。
「……やっぱり、わかるんだね」
「ああ。ファルが王都を破壊したって聞いたときから、大体の予想はついてたよ。お前がやったんだろ?」
「ふふっ……。もうバレてるんなら、この姿に化けてても仕方ないね」
そう言って、アルビイさんはその姿を変え、元の姿へと戻った。
「やっぱりお前だったか――イルビア」
俺の言葉に、イルビアはペロリと舌なめずりをした。
安直すぎてわかってた人多そうだなぁ……