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有り得ない事実

更新遅れてすみません。

「今……なんて、言いました?」


 聞き間違いかと思いたかった。だって、そんなことは有り得ないから。


 だが、彼の口から出た言葉は、先程の言葉が聞き間違いでなかったことを証明するだけだった。


「だから、王都をこんな風にしたのはファル様だと、そう言ってるんだ」


「そんな、私は何も――」


「どうしてあの方はこんなことをしたんだ!!」


 消え入りそうなファルの声をかき消すように、彼は叫んだ。目の前に本物のファルが居るとも知らずに。


「俺は……俺達は、国や、貴女たちを守りたいからこの職に就いたんだ! それなのに、それなのにどうして貴女がこんなことをするんだ!! ……今まで俺が守ろうとしていたのは全部、無駄だったのか……?」


「ちょ、待ってください。ファル様がやったなんてのは有り得ない話で――」


「ああ俺だって信じたくはないさ! でも俺はこの目で見てしまったんだ! あの方が自室の窓から出てきて王都を破壊し始めたところを! 紛れもない自分の目でな!」


 どうにかファルが無実だということを伝えようとしたのだが、彼はもはや聞く耳を持っておらず、ただ叫び続けていた。


「なあ! まだどこかに隠れてるのか!? それなら出てきて教えてくれよ!! どうしてこんなことをしたんだ!! 今までどんな気分で俺達を騙してたんだ!!」


「違うの、これは、私じゃ、なくて……」


 ファルの気持ちなど知りもせず、彼に同調して、他の意識がある兵士たちも不満を口にし始めた。


「何故裏切ったのですか! ファル様!」


「クソッ……! 俺達、騙されてたのかよ……!」


「絶対許さねぇ……!」


 自分への憎悪の感情を向けている兵士たちを目の前で見ていたファルは、耐えられなくなったのか後ろへと走り出した。


「「フィリア(ちゃん)!?」」


 フィリアの正体がファルだと知らないルリとヘレンさんは意味がわからず驚いていたが、俺はすぐにファルを追いかけ始めた。


 ファルが路地へ入り込んだのが見えたので、俺もその路地に入り込むと、ファルがそこで小さく呻き声をもらしていた。


「……ファル」


 俺が声をかけるとファルはこちらに振り向き、そのまま抱きついてきた。


「アル君……私は……何も、してない……のに」


「ああ。わかってる」


「なのにどうして、こんな、ことに……」


「……」


 思えば、ファルは好意や悪意を向けられたことは有れど、憎悪の念を向けられたことは無かったのだろう。


 それは当たり前だ。ファルは誰かに恨まれるようなことをする人ではないし、むしろ自分に酷いことをしたアンティスブルグの王子をも許すような優しい性格だ。


 そうだというのに、身に覚えの無い事で憎悪の念を向けられたんだ。相当参っているだろう。


「私、これからどうしたら良いのかな……? こんなの、嫌だよ……」


 そう言って、ファルの抱き締める力が強くなった。


 こんなに弱っているファルを見たのは初めてだ。いつもの元気さの欠片もない。


 俺もこんな姿のファルをずっと見ていたくはない。


「……絶対にどうにかする。……だから、今は耐えてくれ」


「……うん」


 俺はそう言って、ただファルの頭を撫でてなだめることしか出来なかった。





「ありがとう。もう、大丈夫だから」


「そっか。無理はするなよ」


「うん」


 そう言ってファルが離れた直後、背後からルリの声が聞こえてきた。


「あっ! 居たよ!」


 振り向くと、ルリが路地の入り口に立っており、声を聞いたヘレンさんもこちらへと駆け寄ってきた。


「もー! いきなり二人して走っていっちゃうから探したんだよ!?」


「まったくもう……」


「それは……その、すみません……」


 俺がそう謝ると、ファルが俺の前に出た。


「ごめんなさい、私のせいなの。アル君は、私を心配して追いかけてきてくれただけで……」


「……何かあったの?」


 ヘレンさんの言葉にファルはコクリと頷き、俺の方を向くと、


「……この二人には話しておきたいんだけど、良いかな?」


「そうだな。俺もその方が良いと思う」


「わかった。じゃあ二人とも、ちょっと聞いてくれるかな?」


 そうして、フィリアというのは偽名で、実は王女であるファルだということを二人に明かし、王都をこんな風にしたのは自分ではないと説明した。


「騙しててごめんなさい。悪気はなかったんだけど――」


 そう言われたルリとヘレンさんは、何故か顔が青ざめていた。


「……二人とも、どうかしたか?」


 俺がそう聞くと、ルリは震えながら口を開いた。


「……ぼ、ぼぼぼぼ僕、た、大変しっ、失礼ナコトヲ……言ってシマッテ……」


「……ルリ? 片言になってるぞ?」


「わ、わたわた、わ、私も、ぶ、無礼な、言葉を……」


「待て、わかった。とりあえず二人とも深呼吸しよう。話はそれからだ」


「しっ、深呼吸なんてしてられないよ! だ、だって、このままじゃ不敬罪に……!」


「そんなんで不敬罪になるなら俺なんて即処刑じゃねぇか」


 なんなら裁判無しで死刑決まるまである。


「ふ、二人とも気にしないで! 私だって正体を隠してたし、変に敬ったりしないで今まで通りにしてくれればいいから!」


 今度はファルがなだめる番になってしまい、二人が落ち着くまでに数分の時間を要した。

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