王都の惨状
「これは……酷いな……」
ところどころ建物が半壊、もしくは全壊しており、腰を抜かして力が入らないのか、そのままペタリと座り込んでしまっている人も少なからず見うけられた。
見た感じ目立った怪我をしている人が居ないのは不幸中の幸いだ。
「あの人達にも話を聞いてみようよ。もしかしたらこんな事をした奴の姿を見てるかもしれないし」
ルリの提案に俺達全員は頷くと、一番近くに倒れていた男性の元へ駆け寄った。
「すみません。大丈夫ですか?」
俺がそう声をかけると、男性は力なく頷き、
「あ、ああ。なんとか無事だったけど、その、腰が抜けて立ち上がれなくて……」
「そうですか……。ところで、何があったんですか? 襲撃してきた奴の姿は見ましたか?」
「……すまない。逃げることに必死で後ろなんてまったく振り向かなかったんだ。だけど、逃げてる最中に真横にあった建物が倒れてきて、それで……」
「……わかりました。ありがとうございます」
俺が去ろうとすると、男性は俺を呼び止めた。
「待ってくれ。ひとつだけ、伝えたいことがある」
「伝えたいこと?」
「ああ。こんなのが情報になるかわからないけど、建物が倒れたときに、一瞬見えたんだ」
「見えた……?」
「ああ。爆発の煙で姿はほとんど隠れていたけど、それでもわかった。あれは……人だ」
人、ってことは……。
ルリの方を見ると、ルリもこくりと頷いた。
「……貴重な情報、ありがとうございました」
「ああ。そっちも気をつけてくれ。まだどこかに潜んでいるかもしれない」
礼を言って男性から離れると、ルリが口を開いた。
「"人"が居たって言ってたよね? ってことは……」
「ああ。それが本当なら多分、邪神の配下だろうな」
「邪神……?」
ファルはいまいち話がわかっていないらしく、首をかしげていた。
確かにファルには邪神の事をそこまで詳しくは説明してなかったな。
俺は出来るだけ今までの事を簡潔にファルへと説明すると、ファルは理解したように頷き、
「……なるほどね。で、今回こんなことをしたのがその邪神の配下の可能性があるってこと?」
「そういうことだ。さっきあの男性が見たのが襲撃者だとすれば……だけどな」
「……なら、今まで以上に用心して進みましょう。爆発音が止んでいる今、どこに襲撃者が潜んでいるかわからないし、もしかしたら不意をついて襲ってくる可能性もあるわ」
ヘレンさんの言葉に全員が頷き、周囲を警戒しながら足を進めた。
王都の中心に進めば進むほど被害は大きくなっており、ほとんどの建物が全壊している場所もあった。
また、中心へと向かう最中、見かけた人に話を聞いていくと、段々と証言が取れてきた。
最初に爆発があったのは王宮、もしくはその付近らしく、その地点を中心に外側に向かってどんどんと爆発が引き起こっていったらしい。
さらに爆発の煙に紛れた人影を見た人も数名おり、最初に話を聞いた男性の話は信憑性が増してきた。
そのことでより一層警戒を強めながら進んでいき、遂に俺達は最初に爆発が起きたという王宮へと辿り着いた。……が。
「……そん、な」
そう言葉を漏らしたのはファルだった。
無理もない。あんなに立派だった王宮が、今となっては見るも無惨な姿へと変貌していたからだ。
倒れている兵士も大勢おり、甚大な被害が発生していた。
「覚悟はしてたけど……でも、こんなのって……」
その言葉を発したのが"ファル"という一人の王女だという事を知らないヘレンさんとルリは、『どうしたの?』『大丈夫?』と声をかけて心配していたが、正体がファルだと知っている俺は、ファルの気持ちが理解できた。
今まで小さい頃からずっと暮らしてきた思い出深い場所が、こんなにも無惨に壊されたんだ。ショックを受けない訳がない。
「……ごめんね、二人とも。もう大丈夫だから。ほら! あそこに兵士さんが居るし、何か知ってることがないか聞いてみようよ!」
明らかに無理をして元気を出しているのが丸わかりだったが、耐えているファルの気持ちを汲み取り、俺達は意識がある兵士さんに近付いて話しかけた。
……それが、さらにファルを苦しませる要因になるとは知らずに。
「すみません。爆発を起こした襲撃者の姿、もしくは襲撃者がどこへ向かったか見てませんか?」
そう聞くと、座り込んでいた兵士さんはゆっくりと顔を上げた。
「……ああ、それなら見たよ。爆発を起こした"あの人"を、この目ではっきりと……な」
「あの人……?」
まるで絶望しているかのように力無くそう言った兵士さんは、こう続けた。
「王女のファル様だよ」