襲撃
操縦者さんに止まるよう声をかけ、俺は急いで馬車から降りた。
「何が起こってるんだ……?」
考えているいる間にも、どんどんとこちらへ馬車が向かってきており、王都からは大きな爆発音のようなものが聞こえてきた。
つまり今、王都が何者かによって襲われている可能性が高い。
今すぐにでも王都に向かいたいが、俺以外の4人を放っておくわけにもーー。
「ユリア様は私に任せろ」
「おわっ!?」
突如後ろから聞こえた声に驚きながらも振り向くと、そこにはさっき気絶させたはずのペドが居た。。
「いつの間に……。でも、お前に任せるのはちょっと不安が……」
「ああ。何、心配するな。こんな状況で邪なことなど考えたりはしない。無事に送り届けることを最優先する」
「ペド……」
今までみたこともないくらい真剣な表情でそう言ったペドを見て、俺はペドを信じることにした。
「そっか。なら任せた。変な気は起こすなよ」
「ふん。言われるまでもない」
ペドはそう言うとユリアに事情を説明し、『私だけ逃げるなんて嫌だ』と反対したユリアを、無理矢理に近い形で連れて帰った。
「アル……どうするつもり?」
ルリがそう聞いてきたので、俺は全員の方を見て、
「俺は王都に向かう。だから、皆はとりあえずここから離れてーーんでっ!?」
言いかけたそのとき、突然ルリが俺の頭にチョップをしてきた。
「まったく、また一人で行こうとするんだから……。言っておくけど、僕だって着いていくからね!」
「私もそのつもりよ」
ルリの言葉に続いて、ヘレンさんもそう言った。
「で、でも、今の王都は危険で……」
「ア~~~ル~~~?」
少し怒ったような様子でルリはこちらに近づいてきて、
「一人でアルを行かせるわけにはいかないよ! それに、言っておくけど、僕だって戦えるんだからね!!」
「ええ。アル君の知らないうちに、私たちだって成長してるんだから」
「二人とも……」
俺が驚いていると、後ろからファルに袖を握られた。
「……私も、行く」
「えっ……。でもお前は……」
「戦う力はあんまり無いし、足を引っ張っちゃうってこともわかってる。だけど、私の国がこんな風になってるっていうのに、逃げるなんて嫌なの」
そう言って、袖を握る力が強くなった。
だが、国の王女であるファルを危険地帯に連れていくなんて事は易々と出来ない。
もしファルに何かあれば、この国の未来に影響するのだから。
「お願い。私を連れていって」
……でも、ファルは本気だ。王女として、この状況から目を背けないようにしている。
なら、出来るだけファルの気持ちを汲み取ってあげたい。だから、
「……わかった。でも、いざとなったら逃げると約束してくれ」
「……! うん!」
俺はルリとヘレンさんの方に視線を移し、
「二人も無理はしないようにしてほしい。危なくなったらすぐ逃げるようにしよう」
俺の言葉に二人が頷いたのを確認すると、俺はファルを横抱きした。
「……え?」
「よし! 行こう!」
「ちょ! 待って! 行くとは言ったけどこんな格好でーー」
ファルの言葉は無視して、俺達は王都へと走り出した。
「お客さん! お駄賃のお支払を忘れていらっしゃいますよ! お客さん、お客さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
操縦者さんには悪いと思ったが、この一件が片付いたら支払うことを決意し、俺は足を止めずに走り続けた。
王都に向かって走っていると、王都から逃げてくる馬車とたくさんすれ違った。
「ねぇ! この人たちに聞けば何があったかわかるんじゃないかしら!」
走りながらヘレンさんが言ったことに俺は頷き、
「すみません! ちょっと止まってもらえますか!」
「うわぁあ!? 何だお前は!?」
突然馬車の進行ルートに入ってきた俺に、馬車の主は驚いて急停止した。
「すぐに済みますのでひとつだけ聞かせてください! 王都で何があったんですか!?」
「そんなん俺にもわからねぇ! 突然爆発音が聞こえてきて、皆が急いで逃げてたから俺もそれに乗っかって逃げてきただけだ!!」
「わかりました! 引き留めてすみませんでした!」
「ああ! あんたらも逃げた方がいいぜ! じゃあな!」
そう言って去っていった馬車には目もくれずに、俺はすぐに次の馬車を止めて、何度か同じことを繰り返した。
だが、全員が『突然爆発音が鳴った』『建物が破壊された』等と言っており、襲撃してきたのが何者なのかを知っている人は居なかった。
「これだけ聞いても誰も見てないってことは、少なくとも大型の魔物とかじゃなさそうね」
「そうですね」
「もしかしたら、前に僕とアルが戦ったような奴らなんじゃ……」
「かもな」
ルリが言っているのはロキはネメシスなどの邪神の幹部たちのことだろう。俺も今そう疑っている。
結局敵の正体を掴めぬまま、俺達は王都へと足を踏み入れた。