夜のひととき
結局、あのあと俺は部屋の真ん中で寝るように強制され、他のみんなはジャンケンで場所を決め、俺の布団の周りに皆が布団を敷いていった。
ジャンケンで場所を決めるんだったら俺も混ぜてほしいと言ったのだが、全力で拒否された。
曰く、「それでは意味がない」とのこと。仲間外れにされている気しかしないのだが、大丈夫なのだろうか。
それはさておき、現在部屋は消灯し、既に全員がぐっすりと寝ているのだが、俺だけが寝れていない状況が続いている。
別に寝る場所が変わると眠れないとかそういうわけではないのだが、俺以外の全員が女性というこの環境だと、どこか緊張して眠れなかった。
……このままじゃいつまで経っても眠れないだろうし、一旦水でも飲んで落ち着くか。
そう思った俺は、皆を起こさないようにゆっくり起き上がり、器に水を汲んだ。
その水を一気飲みすると、俺は何となく窓の方へと足を運んだ。
「綺麗な夜空だな……」
ついボソリと呟いてしまうくらいに、窓から見える夜空は綺麗なものだった。
どうせこのまま布団に入っても眠れないだろうし、ちょっと散歩にでも行こうかな。今なら母さんに出会うこともないだろうし。
「……アル君?」
眠そうな声で俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返ってみると、ヘレンさんが眠そうな目を擦りながらこちらを向き、上体を起こしているのが見えた。
「……すみません、起こしちゃいましたか」
「気にしないで」
ヘレンさんはそう言うと立ち上がり、こちらへと近づいてきた。
「こんな時間に何してるの?」
「いやぁ……なんか寝つけなかったんで窓から夜空を見てみたんですけど、とても綺麗なので外に出て見てこようかと」
「……私も行っていい?」
「大丈夫ですよ。一人よりは二人の方が楽しいでしょうしね」
「えへへ……やった」
まだ寝惚けているのか、ヘレンさんは小さな声ではあるが、子供っぽく喜んでいた。
「……おお、窓から見るのとはまた違うな……」
俺とヘレンさんは静まった街中を散歩しながら、夜空を見上げていた。
「もしかしたらこうやって下から見た方が綺麗かも」
「そうかもしれないですね」
ときどき雑談を交えながらしばらく歩いていると、ヘレンさんがベンチを指差し、
「歩き続けるのも疲れるし、あそこで座りながら空を見ない?」
「そうしますか」
俺はヘレンさんの提案に賛成してベンチへ向かうと、そのままベンチに座り込んだ。
ヘレンさんも俺の横に座ったのだが、やけに距離が近い。
あれ? このベンチそんなに小さかったの?
と思っているとヘレンさんはさらに距離を詰めてきて、俺の腕を抱いてきた。
「ちょ……! ヘレンさん!?」
俺が狼狽えているのを見て、ヘレンさんはクスリと笑うと口を開いた。
「……私ね、ほんとはアル君と二人で温泉に来たくて、温泉に行こうって誘ったときも、そのことを言おうとしてたの」
「……え?」
「それなのにアル君ったらそれを言う前にルリちゃんを誘っちゃうし、だからこうなったらヤケだー!! って思って誰でも誘ってって言ったの」
若干責めるような口ぶりでそう言ったヘレンさんは、頬を膨らましてこちらを見た。
「あ……えっと……。何か、すみませんでした……」
俺が謝ると、ヘレンさんはすぐに笑顔になり、
「いいのいいの。皆とも思い出が作れたし、何より楽しかったから」
「そ、そうですか……」
ならよかった……と思っていると、ヘレンさんは口を開いた。
「さて。長い間こんなところに居たら風邪引いちゃうし、あとちょっとしたら戻ろっか」
「わかりまし、たっ……!?」
俺が返事を言い終える前に、ヘレンさんは俺の腕を抱く力を少し強め、肩に頭を乗せてきた。
「いやその! ヘレンさっ!?」
「……座ってる間だけでいいから」
「……え?」
「座ってる前だけでいいから、こうしててもいい……?」
幸せそうに俺の腕を抱きながらそう言ったヘレンさんの頼み事を断るなんて、俺には出来なかった。
「…………いいですよ」
「ふふっ。ありがと」
俺はその後、とにかく無心で夜空を見続けていたのであった。
ラブコメシーン書くの苦手なんですよね(見るのは大好き)




