少年の姉と、判明した邪龍の狙い。
「生きてるって...いや、確かに本には一人だけ
女の子が生き残ってたとは書いてあったけど...」
『多分それだな、まだ姉ちゃんが
王都に居るのかはわからないけど、もしも王都に
居るんだったら...あそこは襲われるぞ、兄ちゃん』
「襲われる? 何で言い切れるんだ?」
まあ確かにグリムの森で邪龍を見たし、
信憑性は高いが、俺は理由が知りたかった。
『″私の匂い″...アイツはそう言ってた』
「匂い?」
『アイツは一つの村や都市を滅ぼすときに一人だけわざと生き残らせるらしいんだ。
そのあとやつは眠りについて、数十年~数百年したら
起きる。
そして自分の匂いを辿ればまた人の居るところに
到着するから、また蹂躙の限りを尽くす。
その繰り返しだ』
「待て待て! お前の姉ちゃんはそれを
知ってるのか!?」
『知らないよ、だって、それを聞いたのは
つい最近だから。
来たんだよ、あいつがここに』
「マジか!?」
『なんでも
普段は数百年は眠りについたままだが
今回はわずか十年ほどで出られたな。
運が良い、生き残りの子孫が住むところばかり
狙っていたから、そろそろ本人の絶望に染まる
顔が見てみたかったところだ...。
さて、付着しているであろう私の匂いを辿ると
するか
って呟いてた』
「...随分とお喋りな邪龍だな。
俺が見かけたときは無言だったが...。
ん? というかそれどうやって聞いたんだ?」
その質問に少年は真下の地面を指差し
『流石にここに幽霊居るってことは
わからなかったみたいだ。
だから普通に聞かせてもらった』
「なるほど...」
でもそれが本当だとしたら王都はかなり
ヤバくないか?
一昨日グリムの森で見かけたし...あのまましばらく
森をさ迷っていてもらいたい。
『というわけだから、姉ちゃんが
真っ先に狙われるし、王都も危ない。
だから、兄ちゃんになんとかしてもらいたいんだ』
それはわかったが...。
「そもそも、姉ちゃんって誰だよ?
名前もわからないのに守りようがないぞ?」
『ああ、悪かった。 言い忘れてたよ』
そう言って少年は頭を掻き、そのあと
俺の目を見て
『ヘレン・リーン
それが、俺の姉ちゃんの名前だ』
それって受付嬢のヘレンさんのフルネーム
だったよな?
え? 生き残りってヘレンさんのこと
だったのか!?
『その様子だと、どうやら姉ちゃんのことは
知ってるみたいだな。
姉ちゃんと王都のこと、よろしく頼むぜ、兄ちゃん』
そう言った少年の体が段々と薄くなってきた。
「え!? おい? ちょっと待てよ!」
『あ、それとさ、姉ちゃんはさ、多分俺が
死んじゃったことに責任感じちゃってる
だろうから気にしてないって伝えといてくれ』
「いや! まだ聞きたいこと...が...」
俺は思わず少年の方に手を伸ばしたが、俺が
最後まで言う前に、少年は消えてしまった。
まったく...突然消えられちゃ困るんだが...。
とはいえ、任されてしまったし、覚悟を
決めるか。
さて、取り敢えずヘレンさんに
この事を伝えておいた方が良いよな。
一応もう一度ホノル村を歩き回り、
何も情報が無いことを確認した俺は、
王都へと走り出した。
―――――――――――――
場所は変わってここ王都の門。
門番の二人はいつも通り入国検査をしていたが...。
「おい? なんだあれは?」
門番の一人が目の前の空を指差していて、
そこには黒い物体が見えた。
それはどんどんと大きくなっている。
近付いてきている証拠だ。
「あれは.........黒龍か?」
「多分な...いや、違う。 あれは黒龍なんかじゃ――」
その言葉は、飛来してきた者が
門の上を通りすぎるとともにもたらされた
暴風により止められた。
「遂ニ貴様ノ住ム都市ニ辿リ着イタゾ...。
私ハ貴様ヲ最初ニ殺スコトニ決メテイルンダ。
サァ、ドコニ居ルンダ?」
王都に正体不明の真っ黒な龍が入り込んだことにより、
王都はパニック状態となった。