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あってはならない邂逅

「ペド……流石にそれは無理があるよ……」


 ユリアが呆れながらそう言うが、ペドはかたくなに認めようとはせず、否定し続けた。


「私はペドなどという者ではありません! 変態パンツマスクパンツマンです!」


「……自分で言ってて恥ずかしくないのかそれ」


「正体がバレるよりマシだ!」


「正体って言っちゃったよ」


 ぶっちゃけ正体バレッバレの状態なのだが、本人が認めないことにはどうしようもない。後日聞いたとしてもはぐらかされるだろう。


 かと言って、自分がペドだと認めさせる手段も思い付かない。


 どうしたものかと思っていると、ユリアは残念そうに「そっか……」と呟き、


「もし貴方がペドだったら、あの牢屋から抜け出したってことだから、格好良いなぁって思ってたのに、ペドじゃないんだ……」


 ユリアが溜め息まじりにそう言うと、ペドは音速で仮面を取り外した。


「ユリア様ぁぁぁぁぁ!! 申し訳ございません!! 貴方の格好良い下僕のペドはここにおります!!!!!」


 デレッデレッの気持ち悪い表情でこちらに迫ってくるペドに向かって、ユリアはドン引きしながら口を開いた。


「……気持ち悪い」


「その言葉は我々の業界ではご褒美ですともユリア様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ついにMにまで目覚めやがったのかこのロリコン。


 こんな状態のペドをユリアに触れさせるわけにもいかないので、とりあえず顔面に一発拳をお見舞いした。


「ぬぼろっ!?」


 殴られた衝撃でゴロゴロと転がっていくペドから、何か布のようなものが落ちた。


「あれは……」


 何かと思い拾おうとすると、俺よりも早くユリアが前に出てその布をバッと拾い上げ、隠すように両手で握り締めた。


「……見ちゃダメ」


「え? …………あー、理解した。ごめん」


 そう言えばユリアの下着が取られてたんだっけ。ってことは、今のはユリアの下着か。


 そりゃ見られたくないわけだ。


「……く、そぉ……。お、お宝が……。それさえあれば10年は元気に暮らせるのに……」


「お前ほんと変態だな……」


 ペドのロリコン具合には心底呆れたが、とはいえこれで一件落着。俺の誤解も解けたわけだ。


「ユリア。馬鹿を片付けた事だし、部屋に戻ろうぜ」


「うん。……でも、その前に……」


 ユリアは俺に向けて頭を下げた。


「疑っちゃってごめんなさい」


「えっと……別にそこまでしなくてもいいぞ? 気にしてないから大丈夫だ。第一、あの状況じゃ俺が疑われても仕方ないしな。それに――」


 そのとき、俺の言葉は止まった。


 何故なら、目の前には浴衣姿の母さんが居て――。


「やっと見つけたわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 目にも止まらぬ速さで飛びかかってきたからだ。


「嗚呼!! やっと会えたわ!! 久しぶり!! 元気だった? ちゃんとご飯食べてる? 変な女は寄ってきてない?」


「大丈夫! 大丈夫だから離してくれ! く、苦し……」


「あらそう? それなら良いんだけど……」


 女性とは思えないほどの力強い抱擁から解放された俺は、この場をどう切り抜けるかという一点だけに思考を注ぎ始めた。


 このままではユリアが危険かもしれない。だけど、そう簡単に母さんが俺たちを帰してくれるとは思えない。


 目を盗んで逃げる……無理だ。光速で捕まる。


 言葉で上手い具合に言いくるめて逃げる……駄目だ、この状態の母さんに理論は通用しない。


 囮を用意してその隙に逃げる……いや、そもそも囮なんてどこにも――。


「アル、黙っちゃってどうしたの?」


「えっ!? あ、いや! えっとー、その……」


 まずい。ユリアも怖がってるし、何とか早く逃げないと。とりあえず、今は会話を繋げてどうにかユリアに意識が向かないように……。


「というか、どうしてこんな人気(ひとけ)のないところに居るの? さてはそこの娘といやらしいことを――」


 ユリアに矛先向くの早ぇよ! そもそもそれ違うし!


「いや! 実はコイツに汚名を着せられて、俺はその汚名を返上するためにコイツを追いかけてたんだ!」


 俺はペドを指差しながら正直に言うと、母さんは鬼のような表情になった。


「……私の息子に、汚名を着せようとした……ですって……?」


 あ。これヤバイやつだ。


「そこの貴方……地獄を見る覚悟は出来てるのかしら?」


 同じく空間に居るだけで恐怖を感じるオーラを出しながら、母さんがペドに問いかけると、ペドはまるで余裕そうな表情を見せ、


「ふん。幼女との交流が断たれたあのときに比べれば、どのような地獄も天国に等しい。地獄を見せられるものなら見せてみるが良い」


「幼女……? あなた、ロリコンなの?」


「その通り、私は全ての幼女に対し愛を注いでいるのだ!」


 ペドが自信満々にそう言うと、母さんは見下すような視線をペドに向けた。


「――下らない。底が知れたわ。その程度の愛を自信満々に語るだなんて」


「なに!? 私の幼女への愛が"その程度"だと!?」


「ええ。貴方は全ての幼女へ均等の愛を注いでいるんでしょう? その分、一人当たりの幼女に注いでいる愛の量なんてたかがしれているわ。その点、私は自分の息子のアルだけに全ての愛を注ぐことで溢れるほどの愛をアルに向けることに成功しているのよ!!」


「なん……だと……!?」


 ……なんだこれ。両方ただの馬鹿じゃないか。


「私は……間違っていたのか……」


 愕然とするペドに対し、母さんは優しく肩を叩き、


「いいえ。貴方は間違っていないわ。ただ――」


 ペラペラと愛について語りだした母さんの話を、ペドはこれまでにないほどの真剣な表情で聞き始めた。


 ……今なら逃げれるんじゃね?


「……ユリア、こっそり逃げよう。そーっと、そっーとな」


 俺がボソリと言ったことに対してユリアがコクリと頷いたことを確認すると、母さんとペドに気付かれないように、ゆっくりその場を離れ、部屋に戻ることに成功したのだった。

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