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入浴

「うあ~……」


 久々に温泉に入った俺は、だらしない声をあげていた。


 この温泉、効能が良いのか、それとも温泉という概念がそうさせているのかわからないが、日頃の疲れがどんどんと抜けていくようで、入浴していてとても気持ちが良い。


 俺個人じゃ温泉に来るなんて発想は無かっただろうし、ヘレンさんには感謝しなきゃな。


「しっかし、こんなに気持ち良いなら|女性陣(向こう)よりも長風呂しちゃうかもなぁ……」


 そう言いながらチラリと後ろを見ると、木で作られた高い柵が視界に入った。


 この柵が男湯と女湯を隔てているのだが、この柵には覗き防止のための魔術的工作がされているらしく、よじ登ろうとすれば防衛用の魔術が発動するらしい。


「ま、そもそも覗きなんてするような人は居ないだろうけど――」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?!?!!?」


 居るのかよ。


 柵を登ろうとした勇敢な戦士(ヘンタイ)は、防衛魔術をモロに食らったのか、そのまま落下した。


 それを見ていた周囲の男性達は彼を軽蔑するどころか、勇気あるチャレンジャーとして拍手を送っていた。


「ナイスチャレンジだ!」


「くそっ、やはり駄目か……」


「あの柵を越えられる男は居ないのか……?」


「防衛魔術さえ無ければ……!」


「皆で協力すれば行けるはずだ!」


 変態しか居ねぇのかここは。


「おい君!!」


 俺が苦笑いしていると、突然元気の良い青年が俺に話しかけてきた。


「君も一緒に頑張ってみないか!? 共に|女湯(桃源郷)を見ようじゃないか!!」


「お断りします」


「何だと!? それでも君は男か!?」


「男だからこそ覗いちゃいけないのでは……?」


「わかってないな! そこにロマンがあるんじゃないか!!」


 わかりたくねぇよそんなロマン。


「まあ、気が進まないのなら無理にとは言わないが、我々の勇姿を見て参加したくなったらいつでも言ってくれたまえ! それでは!」


「あっ! ちょっ!?」


 その青年は俺の制止を聞かずに、そのまま柵へと向かっていった。


 それを合図としたかのように、男湯に居た男性が一斉に柵へと向かった。


「うぉあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」


「ぎゃぴぃ!?」


「げぶろっ!?」


 なんの地獄絵図だよこれ。おかしいな。温泉ってこんな風に覗きに本気を出すものだったっけ?


 俺が疑問を抱いている間にも、倒れた男の山はどんどんの積み重なっていった。


「…………あ」


 そして、その積み重なった男達の山は柵より少し低いくらいの高さにまで成長した。


 つまり、あの山を登れば柵に触れずとも覗けるということだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 それに気がついたのは先程俺に声をかけてきた青年で、柵に向かった男達の中で唯一気絶せずに生き残っていた。


 ロマンだかなんだか知らないが、まあ、その場にいる全員で頑張れば目標のひとつは達成出来るんだな。


 止めることも忘れてそのように感心していると、男はついに山の頂きに到達した。


「よし! これで我々は伝説を――!!」


「ホーリーボルト!!」


 女湯の方からルリの声が響いたと同時に、青年の顔面に白い電が直撃し、バランスを崩した青年はそのまま山から落下した。


「……桃、源郷は……目の、前だと、言う、のに……」


 青年は力無くそう呟くと、そのまま気を失ってしまった。


「…………なんだこれ」


 目の前に広がるは男達の山。静寂に包まれた男湯とは反対に、女湯の方ではルリへの称賛の声が上がっていた。


「……ま、これで静かに入浴出来ると思えば良し……かな」


 そう判断した俺は、再び温泉を堪能し始めたのだった。







 覗き魔を成敗したルリはしばらくの間称賛され続け、今ようやく場が収まった。


「ルリちゃん、お手柄だったね!」


 ファルがそう言うと、ルリは照れたように頭を掻いた。


「あはは……。反射的に手が動いちゃっただけだったんだけどね……」


「例えそうだとしても、さっきのルリさんは格好良かったです!」


「そ、そうかな……」


 ルリが2人から褒められている間、ヘレンはずっと男湯の方を見ており、考える素振りを見せながら3人の方を振り向いた。


「ところで、ひとつ気になったんだけど……アル君は覗きに参加したのかしら?」


「「「!?」」」


 ヘレンの言葉で、その場に電流が走った。


「ど、どうなんだろう……。アル君も男の子だし……」


「お、お兄ちゃんはそんなことしませんよ! ……きっと」


「でも、アルなら防衛魔術くらい簡単に越えられそうな気がするし、多分参加してないんじゃないかなぁ……」


「そっか……。……ちなみに、ルリちゃんにひとつ聞きたいんだけど……」


「何?」


 ヘレンはイタズラをしている子供のような顔をすると、


「もし覗いてきたのがアル君だったら、打ち落としてた?」


「んなっ!?」


 ルリは一気に顔を真っ赤にすると、伏し目がちになって視線を泳がせた。


 そして、両手の人差し指を胸の前でチョンチョンしながら、


「えっ、えっと、そもそもアルがそんな、事、するとは思えないし、で、でも……アルだったら……、その、えと、…………見、見られても……いい、かな……」


 そのルリの姿は予想以上の破壊力だったのか、ヘレンとファルはルリに抱きついた。


「「可愛いぃぃぃぃぃ!」」


「ふぇあっ!? ちょっ!? 二人とも!?」


「な、何か今胸がキュンってしました! キュンって!」


 ユリアが興奮しながらそう言っている間に、ルリには自分の体に搭載されていない兵器が二人から押し付けられていることに気がついた。


「…………う、うぅ……。うぅ~……!」


 ルリは二人を突き放し、涙目になりながら叫んだ。


「二人は僕の敵だーーーーーー!!!!!」


 


 

「……何やってんだ。あの4人……」


 ルリの叫び声が聞こえた俺は、柵の方を見て苦笑いをした。

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