旅館
あの後、俺たちが色々とマルーン街を満喫している間にそれなりの時間が経っていたらしく、そろそろ旅館へ行くことになった。
ヘレンさんが予約していた旅館はそれなりに大きくてサービスも良く、さらにお手頃価格であるため人気があるらしい。
また、メインである温泉もかなり質が良いらしく、それも人気の理由の1つだそうだ。
旅館に到着すると、ヘレンさんは素早く受付を済ませ、こちらへと戻ってきた。
「さて、部屋のカギを貰ったことだし、早速部屋に行こっか」
そう言ってヘレンさんは部屋に向かい始め、俺たちもそれに続いて歩きだした。
「どんなお部屋か楽しみですね!」
ユリアが興奮しながらそう言うと、ルリは頷いた。
「うんうん! 僕は海が見える部屋だと嬉しいなぁ!」
その言葉にファルは笑い、
「あははっ! ルリちゃん、この近くに海は無いからそれは無理かなぁ」
「えー!? そうなの?」
驚きながらルリがそう言い、それを見てユリアとファル、そしてヘレンさんの三人が笑った。
うんうん。段々仲良くなれてきてるようで何よりだ。
話しているうちに部屋へ到着したらしく、ヘレンさんは部屋の扉の前で止まった。
「さて。ここが今回私たちが泊まる部屋だから、しっかり場所を覚えてね」
ヘレンさんがそう言うと、3人は頷いて元気に返事をした。
なるほど、女子の部屋はここなのか。
「それで、ヘレンさん。俺の部屋はどこなんです?」
そう聞くと、ヘレンさんだけでなく、その場の全員が「は?」と言った表情でこちらを見てきた。
え、何? 俺、何か変なこと言った?
「……もしかしてアル君、一人だけ違う部屋だと思ってるの?」
呆れたように聞いてくるヘレンさんに対し、俺は冷や汗を流しながら頷いた。
「そ、そうですけど……。ま、まさか俺も同じ部屋なんて……言いませんよね?」
「その通りだけど?」
俺はその言葉を聞くと、小さく「ふっ」と笑い、
「いやいやいや、駄目ですよそれは。それにほら、俺を弟のように思ってるからヘレンさんは俺と同じ部屋で良いと思ってるだけで、多分他の人は嫌がりますよ。……見ててください」
俺は真剣な表情になると、まずはルリへと話しかけた。
「なあルリ、年頃の男女が同じ部屋に泊まるのって駄目だと思わないか?」
「僕はアルなら全然構わないよ?」
「なぁユリ……」
「お兄ちゃんと同じ部屋がいい!」
「フィ」
「答えるまでもないよね?」
八方塞がりじゃねぇかチクショウ。
結局、俺以外の満場一致で、俺は4人と同じ部屋に泊まることになった。
「「うわぁー!!」」
部屋に入って早速、ルリとユリアが窓の方へと駆け出した。
「見て! 良い景色!」
「そうですね!」
街の中でも高めのところに位置する場所にあるこの旅館からは街並みを一望することが出来、夕方のこの時間は夕日が照らす街を見ることが出来た。
「ふふっ。相変わらず元気ね。あの二人」
「そうですね。でも、ああなる気持ちもわかる気がします。綺麗な景色ですから」
そう言ってヘレンさんとファルも窓の方へ向かったので、俺も皆の方へ向かおうとした、そのときだった。
「……ん?」
今、窓の外に何かが見えた。一瞬だが、まるで流れ星のように目にも止まらぬ速さで何かがこの旅館に向かって飛んできて、そして、消えた。
他の皆は気付いていないらしく、4人でワイワイと話していた。
……皆を不安させるわけにもいかないし、俺だけでも警戒しておくか。
「アルー! アルも早くこっちおいでよ!」
「ああ、わかった!」
ルリに呼ばれ、俺は皆の元へと向かった。