そして目的地へ
不安と期待と不安。それと不安を抱きながらも、俺たちはマルーン街へと到着した。
そういえば先ほどセロさんが見えなくなってから一度も現れていないが、ちゃんと対策をしてくれているのだろうか。
……信じるしかないか。
どうか母さんに見つかりませんように……と祈っていると、ヘレンさんが皆の前に出てきた。
「さて、アル君のお母さんがこちらに向かっているというトラブルがあるみたいだけど、協力者も居ることだし、見つからないことを祈りましょう。それで、これからのことなんだけど、まだ旅館のチェックインまでは時間があって、2時間くらい自由時間があるの」
2時間か。それだけあればある程度は街を見て回れそうだな。
「というわけで、どこか行きたいところとか、食べたいものの候補がある人は居る?」
ヘレンさんがそう言った直後、ルリとユリアが同時に挙手し、口を揃えてこう言った。
「「お饅頭が食べたいです!」」
仲良いなお前ら。
「お饅頭ね。アル君、フィリアさん。二人もそれでいい?」
ヘレンさんが聞くと、ファルは頷き、
「私は賛成! 一度くらいお饅頭を食べてみたかったの!! 」
「俺も賛成です。ちょっと小腹が減りましたし」
「なら決定ね。最初はお饅頭屋さんに行きましょうか」
「「やったー!!」」
ルリとユリアは飛び上がって喜ぶと、二人でハイタッチをしていた。
いや、マジでいつの間にそんな仲良くなったの?
喜んでいるルリとユリアを見てヘレンさんはクスリと笑うと、「それじゃ、早速行きましょ」と言って、先導を切って歩き始めた。
村や王都、ガル街などとは違う街並みに新鮮さを覚えながら歩いていると、隣にいたファルがキョロキョロしていたことに気がついた。
ファルも多分俺と同じで、新鮮な街並みを楽しんでいるのだろう。
しばらく物珍しそうにキョロキョロしているファルを見ていると、ファルは俺に見られていることに気が付いたらしく、首をかしげた。
「じっとこっちを見てどうしたの?」
「いや、随分楽しそうだなって」
「だって王都とは全然景色が違うんだもん。私、今までこんな街並みは見たことなかったから、いくら見ても全然飽きなくて……!」
若干興奮しているようにも思えるが、楽しんでいてもらえて何よりだ。
俺も一緒になって街並みを見ているうちにいつの間にか饅頭屋に到着していたようで、ルリとユリアは目を輝かせながら中身が黒い餡の方と白い餡の方のどちらを買うか悩んでいた。
さて、俺はどっちにしようかな……。
「…………ん?」
ふと、俺の目は棚の一番端にある饅頭を捉えた。
ぱ……パケファリブル饅頭? な、なんだそりゃ……。
気になった俺は、その饅頭を指差しながら店主さんに聞いてみることにした。
「店主さん。あの、あれって……」
「パケファリブル饅頭です」
「いや、あの」
「パケファリブル饅頭です」
「えっと、パケファリブル饅頭ってどういう――」
「パケファリブル饅頭です」
あんたパケファリブル饅頭としか言えないのか。
俺が溜め息をついていると、ユリアとルリは決まったようで、店主に声をかけていた。
「私、黒いやつ2個下さい!」
「じゃあ僕は白いやつを3個!」
「毎度ありがとうございます」
他の言葉喋れるじゃねぇか。何でパケファリブル饅頭のときだけ壊れたゴーレムみたいになるんだよこの人。
……はぁ、仕方ない。このままだと気になって眠れなさそうだし。
「パケファリブル饅頭1個下さい」
「毎度ありがとうございますぅ!!!」
何でパケファリブル饅頭頼んだときだけテンション上がってんだよ。
不審に思いながらも、俺はパケファリブル饅頭(普通の饅頭と料金は変わらなかった)を購入し、一口食べてみた。
「…………?????」
何だこれ。意味がわからない。不味いわけではない。かと言って美味しいわけでもない。さらに無味なわけでもないし、明確に味を感じるわけでもない。
もう一度言おう。何だこれ。
他の4人が美味しそうに饅頭を食べてるのに何で俺だけこんな訳のわからないものを食ってるんだ。
というか結局パケファリブルってなんなんだよ。
「……あの」
再び店主に視線を向けると、店主は笑顔で口を開いた。
「どうです? 一口食べたときの味は。 思わずパケファリブルと呼びたくなるような味をしておりませんか?」
「すみません。まったく意味がわかりません」
結局、パケファリブルについては何一つわからなかった。