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安堵

更新遅くなってすみませんでした。

 数十分だったか、それとも数時間だったか、それすらもわからないほどに全力で逃亡した俺たちは、見事に母さんを振り切ることに成功した。


 これは奇跡だ。"あの"母親から逃げることなど、本来なら不可能に等しい。逃げ切れたのは奇跡と言っても良いだろう。


 緊張の糸が解けた俺たちは、力を抜いてだらりと座席へ座り込んだ。


「まさかあんなタイミングで嵐が発生するなんて……」


 ファルがそう言うと、ユリアが頷き、


「しかも、その嵐の中でお兄ちゃんのお母さんが風と雷を操り始めちゃうなんて……。お兄ちゃんのお母さんは凄いんだね……」


 ヘレンさんはユリアの言葉を聞いて溜め息をつくと、


「というか、あの嵐自体がアル君のお母さんが発生させたものだと思うんだけど……」


「僕はアルのお母さんが4人に分身したときはこの世の終わりかと思ったよ……」


 うん……俺の母さんは本当に人間なのか?


 数十人の魔術師が居てようやく実現できるかどうかのものを一人で実現させるとかやばいだろ。


 ……でも、何で母さんがあんなところに居たんだ?


 見た感じどこかへ向かおうとしていたように思えたけど……。……まさか、な。


「……アル? どうかした?」


 俺の表情が険しくなってしまっていたのか、ルリに心配されてしまった。


「いや、何でもない。だってそんなの有り得ないからな。うん」


「それにしては汗がすごいけど……」


「気にしないでくれ。俺がとんでもないくらい汗かきなだけだから」


「初めて聞いたんだけど!?」


 最早自分でも変なことを言っていると感じ始めたそのとき、馬車の窓を外からノックする音が聞こえた。


 車内の全員がビクッ! として一斉に音の発生源へと振り返ると、黒いローブで顔を含めた全身を隠している人物が、馬に乗って馬車の横を並走していた。


 ……もしかして、影の傀儡の構成員か……? だとしたら母さんの指示で……?


「待て! こちらに敵対の意思はないし、この行動はルシカ様の指示ではない!」


 この声、もしかして……。


 俺は馬車の窓を開け、懐かしい人物の名を口にした。


「セロさん……?」


「おお! 覚えていてくれているとは、恐悦至極とはまさにこのこと! でも、覚えていてくれたのなら前のように親愛なる兄さん(ブァザー)と呼んでくれても構わないのだよ?」


「それ俺のこと騙して言わせただけだろ……」


「はっはっは! ごめんなさい謝るのでもう一度だけブァザーと呼んでくださいお願いします」


「お断りします」


「畜生!」


 なんかどこかの変態(ペド)と似たものを感じる気がするな……。ユリアの気持ちがちょっとだけわかったかもしれない。


 って、今はそれどころじゃなかったんだった。


「というか、母さんの指示じゃないってどういうことなんだ? もしかして何かあったとか?」


「いや、私たちはルシカ様と君を同等のレベルで崇拝している。だから、君だけに情報を伝えないのはフェアじゃないと思ってね」


「……情報? それってどういう……」


 俺が言い切る前に、セロは先ほど俺が恐れていた事実を口にした。


「ルシカ様は、君たちがマルーン街に行くことを知っていて、なおかつルシカ様もマルーン街に向かっている」


「「「「「はい!?」」」」」


 その言葉を聞いた瞬間、車内に居た全員が驚きの声をあげた。


「自分で言うのもなんだけど、影の傀儡の諜報技術は凄くてね。君たちの会話を盗み聞きするくらいわけもないんだ」


 つまり、今回俺たちがマルーン街に行くという情報は影の傀儡から漏れたってことか……。


「でも、それを知ったところで俺たちにはどうしようも……」


「だから私達が来たんだ。フェアにするためにも、私達が君達の存在を出来うる限りルシカ様から隠蔽しよう」


「私……達?」


「? 見えないか? 馬車の周囲を私の他に10人くらいが馬に乗って走っているだろう? 隠蔽魔法を使っているから、少し見えずづらいかもしれんが」


 そう言われ、馬車の周囲を確認してみたが、それらしき姿は見えなかった。


「…………居るのか?」


「ああ、居るぞ」


 見えねぇよ。どんだけ隠蔽魔法得意なんだよお前ら。


「くくくっ……。どうやら君には見えていないらしいな。これは彼らの自信になるだろう」


 俺が見えないだけで自信持っちゃうのかよ。


「……ってか、もし母さんにバレたらどうするんだ? 怒られるだろ?」


「バレたら……というか、確実にバレて、ルシカ様はさぞやお怒りになられるだろうな……。だが――」


 セロさんはスゥッ……と息を吸うと、大きく口を開いた。


「「「我々の業界ではご褒美です!!」」」


「馬鹿じゃねぇのお前ら」


 というか声が木霊して聞こえたぞ。きっと、周囲で隠蔽魔法とやらを使って走っている人たちの声なのだろう。


「というわけで安心してくれたまえ。我々は君のために働けるという充実感と、ルシカ様に叱って頂けるという幸せの板挟みサンドイッチを腹一杯に食したいのでな」


「そんなサンドイッチがあってたまるか」


「ふはははは! というわけで私たちは君たちを見守っているからな! 健闘を祈る!」


「帰れ」


 俺の言葉にセロさんからの返答はなく、セロさんは隠蔽魔法で姿を消してしまった。 

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