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静寂な馬車内

「……はぁ」


 静まり返った馬車内で、俺は小さく溜め息をついた。


 あのあとは散々だった。何が起きたか話した直後、全員から質問責めに遇い、ファルには女たらしの烙印を押された挙げ句にまたつねられた。めちゃくちゃ痛かった。


 騒いでいる内に眠くなったのか、ユリアがルリに寄りかかるような形で眠りに落ち、その姿を見ながら頭を撫でていたルリも次第に目を細め始め、眠りに落ちた。


 二人を起こさないようにしようということで馬車内が静かになったのだが、最終的にはファルとヘレンさんも俺に寄りかかるような形で眠ってしまった。


 俺も寝ようかと思ったのだが、二人に寄りかかられているこの状態で、どうやって寝れば良いのか検討もつかない。


 そもそも疲れを取るための旅行のはずなのに、道中で既に俺の疲労度がMAXなんだがこれはどういうことだ。


 まだマルーン街まではそれなりに時間がかかる。その間ずっとこの体勢で居るのは流石に辛い。


 何か対策を考えないと――そう思ったそのとき、この馬車が何かを通りすぎた。


 ……何故だろう。寒気がする。今通りすぎたものを見たくない。


 でも、この寒気を感じているのは俺だけだ。つまり、危険を皆や操縦している人に知らせることが出来るのも俺だけということになる。


 となれば勇気を出して見るしかない。もしそれが俺たちにとって脅威となるものだった場合は、発見が遅れれば大変なことになるからだ。


 俺は覚悟を決め、ゆっくりと首を動かして頭の後ろにある窓から外を確認した。


 そこで俺が見たのは何かトラブルでもあったのか停まっている馬車と男女の二人組で、男性の方は馬車の操縦者さんと話していたのだが、女性の方はじっとこちらを見つめていた。


「…………いや、まさかな」


 あの二人、どこか見覚えがある。いや、見覚えしかない。


 でも他人の空似だろ、きっと。うん。ここに居るわけないもんな。


 そう楽観視していると、女性は急に指先を光らせて小さな球体を生成すると、それをこちられと飛ばしてきた。


 攻撃魔法……ではなさそうだ。それならあれは一体……。


 と思っている間にもその球体はこちらとの距離を詰め、やがて馬車の窓を貫通して俺の頭へと命中した。その直後、脳内に音声が流れた。


『ねぇアル。私、その娘達について詳しくお話が聞きたいんだけど……』


「ひぃっ……………………」


 間違いない。疑う余地もなくあれは母さんだ。


 叫びたくなった気持ちをなんとか抑え、全員が起きるのを防いだが、どうにかして母さんから逃げ切る方法を見つけないとやばそうだ。


 ってか何でここに居るんだあの人。まさか目的地が同じなんてことはないよな……?


 そう思っていると、今度は複数の球体がこちらに飛んできていた。


 えっと……1、2.、3、4。……4発? 何でそんなに?


 疑問に思っていると、球体は俺以外の全員に命中した。


「うわっ!?」


「いやっ!!」


「きゃっ!?」


「ひゃっ!?」


 ルリは飛び起き、ユリアは涙目になりながら目を覚まし、ヘレンさんは悲鳴に近い声を出して起き、ファルは驚きながら目を覚ました。


「お兄ちゃん……何か今、変な、声が……」


 ユリアが泣きそうになりながらそう言って、怖がり始めた。


「……ち、ちなみに、何て聞こえたんだ?」


「『お話しましょう?』って……」


 怖すぎんだろそれ。そんな高威力かつ恐怖心を煽れる言葉がこの世にあったのか。


 他の三人は大体予測が付いているのか、チラリと俺に視線を向け、


「ねぇアル、ひとつ確認したいんだけど、これって……」


 ルリの言葉に俺は頷き、そして、真実を伝えた。


「何故か母さんが後ろに居る」


「「「うわぁ……」」」


 ユリアはまだ母さんの恐ろしさを知らないので、何が何だかわからないという顔をしていたが、全員の顔色が良くないところから、色々と察してくれたらしく、


「え、えっと……。お兄ちゃんのお母さんはそんなに怖い人なの……?」


「……ユリア、知らない方が良いってこともあるんだよ……」


「う、うん……」


 とりあえずヤバイということは伝わったようだ。


「でも幸いなことに、母さん達の乗っている馬車にトラブルが発生してるっぽくて、まだ停まってみたいなんだ。だから……」


 俺たちは全員で頷くと、操縦者さんに向けて全力で叫んだ。


「「「「「スピード上げれるだけ上げてください!!」」」」」

 

 操縦者さんはビクッと驚いたが、俺たちが必死だということはわかってくれたらしく、馬車のスピードを上げてくれた。


 肉親からここまで逃げたいと思うようになるなどと、一体誰が予想しただろうか。 


 今はただ、逃げ切ることを祈るしかなかった。

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