調査遠征
邪龍については恐らくこれ以上の情報は
あまり期待出来ないだろうとは思うが、
とりあえず今度はホノル村について
少し調べてみるか。
ホノル村...ホノル村...あれ?
見つからない?
まさかと思った俺は受付に向かい
「おばさん! ホノル村についての
本ありますか!?」
俺の言葉におばさんは哀れむような視線を向け
「...はぁ、ホノル村についての本なら
あの部屋の中だよ。 もう王女様は
お帰りになられたからあんた一人だけを
入れることは出来ないね」
や ら か し た 。
とはいえ、本が無いとホノル村について
知ることが出ない。
村のあった場所に直接行って
調査くらいはしたかったのだが、
王都周辺の地図を見ても、ホノル村は
載っていなかった。
地図上から村の存在自体を無かったことにして
人々の記憶から消えるのを待つつもりなのか...。
くっそ、まったく情報がないとか
どうすればいいんだよ...。
仕方ない、諦めるか。
「せめて場所くらい知りたかった...」
受付を通りすぎる時につい呟いてしまった
俺の言葉をおばさんは聞いていたようで
「ちょっとそこで待ってな」
「はい?」
おばさんは立ち上がると、魔物についての
本が並んでいるところに向かっていった。
一体なんだろうか?
数分ほど待つと、おばさんは一冊の本を
持って俺に渡してきた。
「魔物の分布調査本...?
何でこれを?」
「この国はね、10年ごとに魔物の分布が
変わってないか調査するんだよ。
そいつは今から13年前のやつだ」
「つまり...どういうことですか?」
「察しが悪いねぇ...、魔物分布本には
地域名だけでなく地図も載ってるんだよ。
もちろん、ホノル村周辺の地図もね」
「...ってことは」
「それを見れば場所くらいは
わかるんじゃないのかい?
あたしゃ、もうあんたに付き合うのが面倒臭いから仕事に戻るよ。 頑張って自分で読んで調べな」
「ありがとうございます!」
「まったく、世話が焼ける坊主だね...」
そう言いながらおばさんは受付に戻った。
俺は本を開き、まず目次を見たが、
『王都周辺や近隣の村や町の分布』や
『オラルド都市周辺、及び近隣の分布』など、
目次では主要な都市の周辺としか紹介されて
いないので、まずは王都周辺から読み始めた。
俺の故郷のシルス村周辺、隣の村の
アイン村周辺など、細かく書いており、
そして...
「あった...」
ホノル村、ここからそう遠くはないみたいで、
馬車で二日の距離にあるそうだ。
そのくらいなら俺のステータスなら調査をしても
普通に日帰り出来るな。
俺は予め持ってきておいた紙に場所を
メモして、本を元に戻した。
とりあえず今日の調査はこれくらいにして、
明日はホノル村の跡地にでも行ってみるか。
――――――――――――
翌日、俺はメモを片手にホノル村に向けて
走っていた。
途中、人や魔物にすれ違ったが、気にせずに
走った。
それほど時間もかからずにホノル村跡地に
到着したが...
「こりゃ酷いな...」
村人の死体はちゃんと弔ったようだが、
ほとんどの建物が半壊、及び全壊しており、
その建物は放置されていて、草が生い茂っていた。
流石に12年も放置されればこうなるわな...。
何かないかと思いながら村を歩いていたが
それにしても、随分と小規模な村だな。
俺の住んでた村の2分の1くらいか?
「...ん?」
とある損傷が少ない建物の近くに
唯一草が生えていないところがあった。
何か埋まっているのだろうか。
俺は悪いとは思ったが、適当な民家から
鍬を借りて、その部分を掘ってみた。
しばらく掘ると、カツン!と何かに
ぶつかった音がしたので、ここからは
手作業で掘り起こした。
そして出てきたのは
人の頭蓋骨だった。
「うおっ!?」
思わず俺は仰け反った。
死体は全て弔っておかれていたとばかり
思っていたが、もしかしたら見つからずに
ずっと地中に埋まっていたのだろうか?
『見つけてくれてありがとな』
「え?」
考え事をしているときに、突然聞こえた声に
顔を上げると、光に包まれた7歳くらいと
思われる青い髪の少年が目の前に浮いていた。
これってまさか...
「ゆ...幽霊ってやつなのか?」
『うん、そうだな。 誰も掘り起こして
くれなかったから、ここからずっと出れなくて
困ってたんだ。 助かったよ』
「お...おう...」
『はは、兄ちゃん、俺と似てるな。
髪の色さえ同じだったら生き別れの双子だって
言われてもおかしくないな』
「そうか?」
まあそう言われてみれば似たなにかを感じるような
気がする。
『さて、本題に入るか』
「本題?」
『真っ黒な龍のことだよ。 お前は何か
知ってるか?』
それって...
「邪龍ウロボロスのことか?」
『俺は名前を知らないからわかんないけど、
多分それで合ってると思う。
あれ、倒せるか?』
「...わからない」
『倒せないって言われるよりマシだな。
あれは、姉ちゃんのためにも倒してほしいんだ』
「...姉ちゃん?」
『うん、姉ちゃんさ、いつも笑顔で振る舞ってる
けど、実はとっても弱くてさ。
それを周りに隠すのが上手かったんだよ。
だから、病気になるまで体調が悪かったのが
まったく周囲にはわからなかったり、
しっかりしてるから大丈夫だという
理由で父ちゃんと母ちゃんが何日か
狩りで家を空けたときも、俺を寝かせたあと
一人で寂しがって泣いてたりさ。
弱いくせに強がってるから、俺が
守ってやらないと...って思ってた。
体を鍛え始めたし、喋り方だって
子どもっぽいのはやめて舐められないように
したんだ』
「なるほど、道理で子どもなのに
そんな口調なわけだ...」
『これくらいしないと姉ちゃんは
守れないからな! ...でもあの日、邪龍だっけ?
あいつが襲ってきてから、俺は姉ちゃんのそばには居られなくなっちゃったんだ。
だって俺は死んじゃったから』
ん? その言い方だと...
「まるでお前の姉ちゃんがまだ生きてるみたいな
感じだな」
『うん、その通り。
姉ちゃん、まだ生きてるんだ』