出発進行
詳しい日程が決まり、それを誘った人たちに伝えてから数日が経ったこの日、ようやく出発の日を迎えた。
集まったメンバーは、ローブのフード部分を深く被って顔を隠しているファル、ヘレンさん、ルリ、魔族だとバレないよう工夫したユリア、そして俺の計5人だった。
ヘレンさんはその全員を見た渡すと、小さく溜め息をついた。
「アル君、確かに別に誰を誘っても良いとは言ったけど……全員女の子ってどういうことなの……?」
何故か少しだけ、ヘレンさんの笑顔から寒気を感じた。
「いや、あの、違うんです」
俺だって好きで男一人の身を選んだわけじゃない。けど、誘おうと思ったリンクさんは見つからないし、リークスからも『仕事を休むわけには行きませんから。嬉しいお誘いですけどご遠慮させてもらうッス』と言われ、どうしようもなかった。
ヘレンさんは恐縮している俺を見て、諦めにも似たような表情をして、
「……まあ、アル君だからこうなることも想定してたし、別にいいんだけどね。……ところで」
そう言いながらヘレンさんは、視線をファルへと移し、
「その方はどなたなの?」
ヘレンさんの言葉に、ファルはピクッと反応すると、
「えっと……私はフィリアと言います。短い間ですけど、仲良くしてください」
今回、ファルはフィリアという偽名を名乗ることにしたらしい。
でも温泉には入るときには王女だってバレるんじゃないか? と聞いたのだが、認識阻害効果のある指輪を付けて対策するから大丈夫と言っていた。
実は前に皆で俺のイルビアとの話を聞いたときもその指輪とやらを付けていたらしい。
道理でルリやヘレンさんから何も聞かれなかった訳だ。
そして、王様にはどう言い訳したのかも聞いてみたところ、どうやらメイドのアルビイさんという人がとても変装が得意なようなので、温泉に行っている間は自分の影武者になってもらっているらしい。
これなら大丈夫そうだ。
「フィリアさん。私はヘレンっていうの、よろしくね」
「僕はルリだよ! よろしくー!」
「ユリアです。よ、よろしくお願いします」
「ヘレンさん、ルリさん、ユリアちゃん。こちらこそよろしくね」
ヘレンさんの後に続いて、ルリとユリアも自己紹介と挨拶を済ませ、ファルもそれに答えた。
さて、じゃあ自己紹介も終わったことだし、そろそろ皆を馬車の出発所に行くよう促しーーーーーーあっ。
そういえば最重要な事を忘れていた。俺はユリアの方を向き、不安に思いながらもユリアに質問した。
「そういや、ペドって今何してるんだ……?」
「それならーーーー」
一方その頃、魔王城にて、
「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 出してくれ! 出してくれ! 出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一人の魔族が、檻をガシャガシャと乱暴に揺らしながら叫んでいた。
その様子を見ていた見張りの魔族は、呆れた様子で檻の中の人物へと話しかけた。
「どれだけ騒いでも無理ですよ。ユリア様のご命令で、温泉から帰ってくるまではペド様をここから出せないことになっていますから」
「何故だ!! 刑期は数日のみではなかったのか!!」
「延長しました」
「サービス延長など私は要請していないぞ!! 今すぐ解放することを要求する!!」
「サービスじゃねぇしその要求も飲めねぇですよ」
見張りの言葉遣いが若干荒くなったが、そんなことも気にせずペドは騒ぎ続けた。
「ユリア様の浴衣姿と、あわよくば入浴姿をガン見出来る唯一の機会なんだぞ!? このときにユリア様の元に行かずして何が世話係だ!!」
「今は世話係の出る幕じゃないので諦めやがれください」
「んぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ペドはドバドバドバァッという効果音が似合うくらい豪快に吐血し、そのまま崩れ落ちた。
ようやく諦めたか。と、見張りの魔族が思っていると、ペドは恐ろしい形相をしながら顔を上げ、
「待っていろ……地べたを這い、ドロ水をすすってでも私はユリア様の入浴姿を見てやる……」
「その言葉は色々な意味で危険だからやめろ」
ついに敬語が取れた見張りの魔族の前で、ペドはブツブツと呟き始めたのだった。
バレそう(何がとは言わない)