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誘い

 ギルドを後にした俺は、帰路に着きながらヘレンさんから言われたことを考えていた。


 誘いたい人……か。俺の周りに温泉が好きそうだったり、疲れてそうな人なんて居たか?


 温泉が好きと言えば父さんが思い浮かぶけど、そもそもこういうときに親を呼ぶなんてしたらヘレンさんやルリが気を使うだろうし、もれなく母さんまで着いてきてしまう。うん、却下だな。


 ファルもそういうの好きそうだけど、そもそも王女だから来れないだろうな。


 あと思い浮かぶのはユリアくらいかな。 慣れない魔王の仕事をしてて大変だろうし、温泉に誘う理由としてはバッチリだろう。


 魔族の証明である角も帽子とかで隠せるだろうし、人目についても問題はないはずだ。


 ……ま、危険だからって理由でペドが反対するかもしれないけど。


 行きすぎた部分もあるが、あいつはあいつなりにユリアの事を考えているし、まずペドに許可を取りに行って、そのときペドが断固として反対したら、そのときはユリアを誘うのは諦めよう。


 俺はそう決めると、家に着いてすぐに棚から共鳴転移石(シンクロストーン)を取り出し、魔族領へと転移した。


 転移した先は魔王城、適当に歩いていればまたペドが何かしているところに出くわすだろうと思っていたが、いくら魔王城を歩き回ってもペドと出会うことはなかった。


「……おかしいな。こんなに長時間歩いてペドに会えないってことは、今日は真面目に働いてるのか……?」


 だとしたら明日は空から槍でも降るのではなかろうか。天変地異でも起きそうな勢いだと言っても過言ではないと思う。


 結局ペドはいつまで経っても見つからず、仕方がないので通りすがりの魔族にペドの居場所を訪ねてみた。


「ペド様、ですか? ペド様ならーー」


 その後の言葉を聞いて、俺は驚愕した。


「……それ、本当なんですか?」


「はい。つい昨日のことです」


「……わかりました。ありがとうございます」

 

 話を終えた俺は走り出し、魔族の人が教えてくれた通りの場所へと向かった。


 場所は魔王城の地下、そしてそこにはーーーーーー。


「見つけた……。お前、どうしてこんなことになってんだよ……」


 ペドは俺の姿を認識すると、フッと余裕ぶった様子を見せた。


「愚問だな。アル・ウェイン。理由は極めて簡単なことだ……」


「簡単な、こと……?」


 魔王城の地下にある今は使われていない牢屋。その檻の向こうで、ペドは大きく口を開けてこう言った。


「ユリア様の下着を盗んだからに決まっているだろうが!!」


「そんなことだろうと思ったわ!! このロリコンが!!」


 結局、ペドは平常運転だった。


「……ロリコンだと? フッ……その褒め言葉はしっかりと受け取っておこう」


「お前頭大丈夫?」


「大丈夫だ。今もしっかりユリア様のことだけを考えている」


「駄目じゃねぇか」


 頭のネジ2~3本取れてんじゃねぇのコイツ。


「……で? 何で牢屋なんかにぶちこまれたんだよ。下着を盗んだからと言って、ユリアがそこまでするとは思えないけど」


「よくぞ聞いてくれたアル・ウェイン。私は尊厳を守ったからこそこの牢屋の中に居るのだ」


「尊、厳……?」


 コイツに尊厳なんてあったのか……?


「そうだ。実は下着を盗んだことが発覚したあと、ユリア様にこう提案された。『もしも今すぐ返してくれるなら、お咎めなしで許してあげる。だけど、返してくれないなら数日間は牢屋に入ってもらうからね』……と」


「お前まさか……」


「その通りだアル・ウェイン。私はそのときこう言ってやった!『ユリア様の下着を捨てて助かろうなど言語道断! その程度の罰、いくらでも受けて差し上げましょう!』とな!!」


「お前もしかしなくても馬鹿だろ」


「愛の探求者と言いたまえ」


 愛の探求者(ロリコン)さんは早く土にお帰りください。


「はぁ……。お前のその信念を貫き通す姿勢だけは尊敬するわ……」


 俺が半ば呆れながらそう言うと、ペドはそう言えばと切り出し、


「アル・ウェイン。貴様は私に何か用があったのではないのか?」


 あっ……。すっかり忘れてた。毎度毎度インパクト強すぎるんだよコイツ。


「ああ。実はさ、今度何人かで温泉に行こうって話になったんだ。それで、まだ慣れない仕事で疲れてるユリアにも、たまには休暇でも取らせてあげたいなと思って誘ーー」


「許可する!!」


「早ぇよ」


 いや、許可してくれるのは嬉しいけれども。


「だって貴様、わかっているのか!? 温泉だぞ!? 露天風呂だぞ!? 監視も普段より格段に少ないんだぞ!? つまり覗き放題だぞ!?」


「下心満載じゃねぇか」


 ってか着いてくる気も満々なのかよ。


「くぅー! みなぎって来た! 素晴らしい話を持ってきてくれたものだなアル・ウェイン! そうと決まれば話は早い! おい、私をここから出してくれ!」


「え。いや、許可取れたからもういいや。じゃ、またな」


「……え?」


 興奮しきった表情から、一気に絶望したような表情になったペドは、泣きそうになりながら檻を掴み、ガシャガシャと鳴らし始めた。


「おいいいいい!! アル・ウェイン! 貴様! 貴様一人だけユリア様の裸を堪能する気かぁぁぁぁぁ!!」


「世の中全員がお前と同じ考えだと思うな。別に覗くつもりはないから安心してくれ」


「信用出来るか!! そもそも貴様みたいなやつはラッキースケベとか言って幸せな目に合うのが主流だろうが!!」


「意味がわからねぇよ!? とにかく、下心があって危ない奴を同伴させるわけにはいかない!」


「……わかった」


 ペドは急に大人しくなると、檻から手を放した。


「ペド……」


「浴衣姿で寝ている色っぽいユリア様を観察するだけに留めることにしよう」


「さようなら」


「待ってくれアル・ウェイィィィィィィィィィン!!」


 慈悲はない。

ペド、留守番決定……?

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