表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/223

溜まる疲労

「はぁ……」


 俺はギルドのテーブルに座りながら、小さく溜め息をついた。


 依頼を終えて王都に帰ってきた俺は、毎日適当な依頼を受けて一日を終えていた。


 シルス村の様子もあともう少し期間を空けたら行こうとは思っているのだが……。


「なんか……調子悪いな……」


 最近、俺はどこか本調子ではない。


 とは言っても、リネアから貰ったお守りのおかげで快適な睡眠は出来ているし、毎日3食のご飯もしっかり食べている。


 規則正しい生活を送っているつもりだし、依頼も無理がありそうなものは受けていない。


「なんでだ……?」


 テーブルに突っ伏してグダ~っとしていると、誰かから肩をチョンチョンと突つかれた。


「はい?」


 誰かと思って上体を持ち上げて振り返ってみると、そこにはヘレンさんが立っていた。


「アルくん。突っ伏してるけどどうかしたの? 大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」


「そう? いつもよりどこか活気が無さそうに見えるけど……」


「あー……。えっと、何となくなんですけど調子が悪いというか、体がちょっと重いというか……。別に病気とかそういうわけじゃないんで大丈夫だと思うんですけど……」


 ヘレンさんは俺の言葉を聞いて、胸の前で腕を組みながら考える素振りをして、


「もしかして疲れが溜まってるんじゃない?」


「疲れ……ですか? でもそんなに疲れるような依頼はここ数日は受けてないですし、夜もちゃんと睡眠を取ってますよ?」


「そうは言ってもアル君って、あんまり休みを取ってないでしょ?」


「ま、まぁ……。そうですね」


「それに、この前のガル街のことや、アンティスブルグの事、あと……私を助けてくれたこととか。他にも私の知らないところで大きな問題を解決してると思うんだけど、それでも全然休まないから疲れが溜まってるんだと思う」


「え……。そういうものなんですかね?」


「そういうものです。アル君はちょっと頑張りすぎだから、お姉さんは心配してるんですよ?」


 まるで弟に言い聞かせるようにそう言われて、俺は頭が上がらなかった。


「はは、気を付けます……。じゃあ数日は依頼を休むってことで――」


「待って。一応聞くけど、アル君って休日はどう過ごすつもり?」


  どう過ごす……って言われてもな……。特にするような事もないし……。


「家でじっとしてます」


「駄目」


 即否定された。泣きたい。


「どうせならもっと休みを満喫した方がいいと思うの」


「満喫……ですか?」


「うん。だから、休みが満喫出来て、なおかつ疲れも取れるスポットがあるんだけど……一緒に行かない?」


「そんな場所が――って、……え? 一緒に……ですか?」


「私もそろそろお休みを取ろうと思ってたし、丁度いいかなって思ってたんだけど……駄目、かな?」


 不安そうな表情で聞いてくるヘレンさんに、俺は返事を返した。


「あ、いや。全然構わないですよ。むしろそういうところを知ってる人と一緒に行けるのは気が楽ですし」


 そう言うと、ヘレンさんの表情がパァァッと明るくなり、


「本当!? いいの!?」


「え、あ。はい……」


 そ、そんなに喜ぶ要素あったか……? まあ、ヘレンさんが嬉しそうだから別にいっか。


「それで、ヘレンさんが行こうとしてるのはどこなんですか?」


「ふふ。疲れを取るって言ったらやっぱり"マルーン街"かなって」


 マルーン街? ええっと……確かあそこは……。温泉街、だったかな。


「温泉……って、ことですか?」


「当たり。疲労回復効果もあるらしいから、アル君にも良いと思って」


「なるほど、それなら疲れも取れそうですね」


「でしょ? それでね、アル君。このことは他の人には――」


「あ! 二人とも! 何の話してるのー?」


 ヘレンさんが何かを言おうとした瞬間、依頼を終えて帰ってきたルリがこちらに向かってきた。


「実はさ、ちょっと疲れが溜まってきたから温泉でも行こうかって話になってさ、ルリも行くか?」


 俺がそう言うと、ルリは目をキラキラさせた。


「温泉!? 行く行く!」


「そっか。ヘレンさん、別に良いですよね?」


「あ、うん。だ、大丈夫……」


 あれ? 今度は何かへこんでる。今日はヘレンさんの感情の変化が激しいな。


 それを見て何かを察したらしいルリが、ヘレンさんの元に駆け寄り、


「えと、何か……ごめんね?」


「いいの……。こうなることはわかってたから……」


「……僕もアプローチするときは気を付けるよ……」


「うん。お互い頑張りましょ……」


 なんでお通夜みたいな雰囲気になってるんだ? ……俺か? 俺のせいなのか……? いやでも原因がわからないぞ……。


 何をしたら良いかわからずに二人を見守っていると、ヘレンさんは覚悟を決めたように拳をグッと握って胸の前に持ってきた。


「うん! もう吹っ切れたし、こうなったら楽しむことだけ考えよう! アル君、他にも呼びたい人が居たら遠慮なく呼んで!」


「え? あ、はい。……わかりました」


 俺が突然元気になったヘレンに驚いていると、ルリが苦笑いしながら呟いた。


「あはは……。メンタル強いなぁ……」

というわけで温泉回が始まります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ