彼女の心情2
次でリネア視点ラストですかね()
一度ならぬ二度までも、彼は私を助けてくれようとしている。先程、失礼な態度を取ったばかりだと言うのに。
こんな良い人に仇で返すような真似をするのは、絶対に避けなければならない。
領主様に監視されている以上、彼から断ってもらうしかないので、失礼な言葉を使ったり、依頼内容をわかりにくく説明したりなど、彼が依頼を受ける気が失せるようなことをしてみた。
それだというのに、彼は依頼を受けてしまった。
何故? そう思わずにはいられなかった。どう考えても怪しいし、関わらない方が得策だというのは誰にでもわかるはずだ。
彼にそれを問うと、こう答えた。
「君はボロボロに汚れて、ついには疲れて倒れるくらいにまで頑張ってここまで来たんだ。そんな人の言葉なら本気で向き合ってあげたいと思っただけだ」
一瞬、涙が出るかと思った。
街は狂い、両親は連れ去られ、単身でここまで来る羽目になったこのときの私は、誰かから優しくされることに飢えていたのかもしれない。
もう少しだけ、他人からの優しさを感じたいと思った。思ってしまった。
だから私は、彼が依頼を受けることを了承した。最悪、ガル街に入る前に諦めさせればいいのだと、そんな言い訳を自分にしながら。
このときに、彼はアルという名前だということを教えてくれた。
アルさんは想像以上に私に優しくしてくれた。
服を買ってくれたり、食べ物を買うお金をくれたり、宿を取ってくれたり、今日が初対面の私にここまでしてくれたので、私は将来アルさんが悪い人に騙されないか心配になった。
そして同時に、これ以上は駄目だと思った。
たった一日で、もう十分すぎる程厚意をもらった。これ以上優しくしてもらっては、罰が当たってしまう。
『もう付きまとわないでください』とはっきり言えば、アルさんが多少傷ついてしまうかもしれないが、身の危険からは逃れられる。
その一言さえ言えれば、それで終わりだったのに。私は言うことが出来なかった。
アルさんに傷ついてほしくなかったというわけではない、私はアルさんに離れて行ってほしくなかったのだ。
仮にアルさんを諦めさせることに成功して一人であのガル街に戻っても、街は狂ったまま。両親も帰ってくる保証はないし。領主様が他の手を考えるという保証もなかった。
いや、そんな難しい理由じゃない。
私はただ単に怖かったのだ。また一人になるのが。
結局、私は自分のワガママな心に逆らうことが出来ずに、アルさんをガル街へと連れてきてしまった。
アルさんはガル街の様子を見て驚いていた。私はもう慣れたが、最初の方は気が気でなかった。
街の様子を見せながらアルさんを私の家に案内すると、アルさんはすぐに街の調査に出掛けてしまった。
本気で依頼に取り組んでくれている証拠であり、嬉しさと罪悪感が私を襲った。
でも、もしかしたらアルさんなら街を元に戻せるかもしれない。もし無理だったとしても、何事もなく王都に帰ってくれればそれでいい。
……なんて、そんな甘い考えはすぐに消し飛んだ。
アルさんの留守を狙って、領主様が私の家を訪ねてきたからだ。
「素晴らしい。王都から一人連れてきたこと、実に見事だ。あの少年にお守りを着けさせた事に関してはあまり褒められたことじゃないが、お守りを外してしまえばリネア君がまともに話せる人が居なくなってしまうしね、特別に許してあげよう」
「……何しに、来たんですか」
そう聞くと領主様は気味の悪い笑みを浮かべ、
「なに、少し頼みがあってね」
「"命令"の間違いではないでしょうか」
「これは手厳しい」
領主様は愉快そうに笑うと、急に下卑た表情になり、
「では命令だ。彼を領主邸まで連れて来い」
「……っ!」
「そんなに怖い顔をしなくても良いだろう? まあ、怪しまれてしまっては元も子もない。一週間ほど時間をかけても構わんからじっくりとやってくれたまえ。……ただし、チャンスを逃せば……わかるね?」
「……はい」
…………そんなことは絶対に、したくなかった。
そのあと領主様がお帰りになられてすぐ、入れ替わるようにアルさんが帰ってきた。
領主邸にアルさんを連れていってはいけない。何としても、阻止しなければ。
そう決意した矢先、彼の口から、衝撃の言葉を聞いてしまった。
領主と謁見したい。そう言ったのだ。