彼女の心情
ごめんなさい完結しませんでした()
今回からあと1~2話だけリネア視点でお送りします。
街が狂い始めたのはいつからだったろうか。
気付いたときには既に手遅れで、私が出来ることもたかが知れていたし、街の変化を食い止めることは出来ず、結果的に街全体が狂ってしまった。
せめて助けが来るまでは私達家族はひっそりと暮らしていこう。そう思っていた矢先、お母さんとお父さんが領主様に連れていかれてしまった。
一人残された私に、領主様はこう言った。
「リネア君。君はこれから王都に行って、誰でも良いから一人この街に連れてきてほしい」
その日の領主様はあからさまに怪しかった。たまにしか見かけないけど、領主様はもっと優しい雰囲気をしているお方だった。
「……なんの為に、ですか?」
「何だって良いだろう? 口答えなんてすれば……わかるね?」
チラリと視線を私の両親に向けながらそう言われ、私は領主様の言いたいことを理解した。
「わかり、ました……」
「それでいい。念のため、君に監視の魔法を施しておく。変なことをしようなどと企てないようにな」
こうして私は両親を人質にとられ、王都から一人連れてくるという役目を請け負わされた。
本来なら隣街のテジル街へ歩いて向かい、そこから馬車で王都に向かうべきだった。
だが、ガル街とテジル街間の馬車が廃線になっていたことにより、テジル街に向かうという考えがなくなってしまっていたことと、茫然自失になってしまっていたことが災いして、私はそのまま歩いて王都に向かい始めてしまった。
しばらくは持ってきた食料でどうにかなっていたが、数日も経てば食料も底をつき、食べられる山菜などの知識が乏しかった私は、ロクに食べ物を口に含まずにとにかく王都を目指し続けた。
徐々に足どりが重くなり、意識も薄くなってきて、ようやく王都に辿り着いたと思ったときには、私の体は力が入らなくなっていた。
どこかで休ませてもらおうにも、既に時は深夜。人気はなく、どの店も閉まっている。
もう無理かも……。ごめんなさい……お父さん、お母さん……。
薄れ行く意識の中、こちらに駆けつけてくる足音が聞こえた気がした。
てっきりここで死んでしまうのかと私は思っていた。だが、次に私が目を覚ましたとき、私はどこかの民家の布団で眠らされていた。
隣を見ると、床に寝っ転がって気持ち良さそうに寝ている、男の人が居た。
この人が、私を助けてくれたのだろうか。それならば、お礼を言わなくてはならない。
「すみません。起きてください」
肩を揺すぶって声を駆けてみるも、彼は目を覚まさない。
「起きてください」
もう一度同じことをしてみるとちょっと反応があったので、さらにもう一度同じことをすると、ようやく彼は目覚めてくれた。
「ん…………?」
「良かった。起きましたか」
彼がこちらに視線を向けたので私はお礼を言おうとしたが、そこで私は考えた。
見知らぬ人をこのような形で助けるような人なら、あのとき何故私が倒れるまでに疲弊することになったのかを聞いてくる可能性が高い。
こういう優しい人なら、私がこうなった訳を少し誤魔化して話せば、まんまと騙されてガル街まで着いてきてくれるかもしれない。
だが、折角助けてくれた人に仇で返すなんて、私はしたくなかった。
だからこそ私はわざと失礼な物言いをして、早々と彼の元を去った。
そして、空腹を我慢しながらも私は考えた。
監視のための魔法を施しておくと領主様は言った。なら、私が何も行動しなければ両親が危ない。
だが、だからと言ってこの街の誰かを犠牲にするなんてこともしたくない。
なら、行動はしたとしても誰も着いてこないように仕向ければ良い。
だからこそ世間知らずを装って、依頼と報酬がまったく釣り合わない依頼を出した。
これで誰も来なければ私の両親は何もされないだろうし、領主様も私を利用価値無しと見限って、他の方法を考えるかもしれない。
そう思っていたのだが、こちらに向かって歩いてくる人物を見て、私は目を疑った。
「君の依頼、俺が受けることにした。頑張るからよろしくな」
一番ガル街に来てほしくなかった彼が、私の依頼を受けに来てしまった。