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仲直り

「アルさん……」


「リネア、怪我とか無いか?」


「大丈夫です。ありがとうございます。……そして」


 何やら暗い表情で、近づいてきたリネアは、俺の前に来るなり頭を下げた。


「すみません! アルさんを騙すような真似をしてしまって……!」


「え!? ちょ! 別にそこまで謝らなくても……!」


 俺が宥めるが、リネアはその姿勢のまま動かなかった。


「いいえ。謝らないと気が済まないんです。善意でここまで来てくれたアルさんに、私は悪意で返そうとしていたんですから」


「リネア……」


「こんなことをして許してもらえるとは思っていません。でも、謝りたくて……。ほんと、に……ごめ、なさい……」


 頭を下げているのでリネアの表情は見えないが、震えるような声でそう言っているリネアの表情を察するのは簡単だった。。


「リネア、とりあえず顔を上げてくれ」


「はい……」


 ゆっくりと顔を上げたリネアの目元は予想通り赤く染まっており、涙が頬を伝っていた。


 俺はそんなリネアの額目掛け、軽くデコピンをした。


「てい」


「ひゃっ!?」


 一瞬デコピンされた部分を押さえたあと、訳がわからないと言った様子でこちらを見ていた。


「これでおあいこってことで」


「へ? ……いや、でも……」


「確かにリネアがしたことは褒められたことじゃないけど、両親と街の人を人質に取られてたんなら仕方ないだろ。別にそのことに関して責めるつもりはない」


「わ、私は……ひゃひっ!?」


 なおも食い下がってくるリネアに対し、俺はもう一度デコピンをお見舞いした。


「やられた本人が許すって言ってるんだから、とやかく言うんじゃありません」


「……良いん、ですか……? 私、また酷いことを言うかもしれませんよ?」


「ああ」


「迷惑だって、かけてしまいますよ……?」


「街一つ助けるより楽なことだ」


「私……、またアルさんとお話したり、一緒に過ごしたりしても良いんですか……?」


「ああ、いいぞ。むしろこっちからお願いしたいくらいだ。また一緒に色んなこと話そうぜ。……出来れば罵倒は抑えめにしてほしいけど」


 ボソッと最後にそんなことを付け足すと、リネアはクスッと笑い。


「ふふっ……。そこまで言われたら仕方がないですね。またお相手してあげます」


「いきなり形勢逆転しやがったなオイ」


 ま、いいんだけどな。これでこそ、リネアらしい。


「アルさん」


「何だ?」


 罵倒か? それとも罵倒か? と思っていたが、リネアは罵倒などしてこず、


「私のことを許してくれて……。嫌いにならないでくれて……。ありがとうございます」


 本当に心からありがたいと思っているような声で言われ、俺は思わず吹き出してしまった。


「……む。何がおかしいんですか……?」


「いや、あんだけ罵倒されてきたのに今更このくらいで嫌いになるわけないだろって思ってさ」


「……へぇ。それならもっと罵倒のレベルを上げましょうか?」


「勘弁してください」


「冗談、ですよ」


 相変わらず冗談なのかかそうじゃないかの判別が難しいな……。でも、楽しそうに笑ってくれてるし、今はこれで万事オッケー……かな。


「う……、うぅ……」


 後ろからうめき声が聞こえたので振り返ってみると、領主がようやく目を覚ましたところだった。


「こ、ここは……私の領主邸……か?」


「その通りです」


 俺がそう言うと、領主は俺を見て表情を和らげた。


「そうか。君のおかげであの魔族から解放された。心から感謝している。ありがとう」


「お礼なんて別に言わなくても――って、どうしてそれを……? 確か乗っ取られていたのでは……?」


「確かに乗っ取られていたが、私自身に意識はあったし、私が何をしていたのかも全て知っている。本当に、君達や街の民には申し訳ないことをした。すまなかった……」


 深く頭を下げて謝罪した領主に対し、リネアは口を開いた。


「いえ、領主様は何も悪く……!」


「いいや、私のせいだ。何せ、こうなった原因は私にあるのだからな。下らない喧嘩など、続けるべきではなかった。プライドなんて二の次に考えて、私が謝っていればそれで済んでいたことなのだ」


「領主、様……?」


 領主は自嘲気味に笑い、話を続けた。


「はは、情けない。謝りたいことがあると言われて誘われた茶会で、まんまと一服盛られてしまってな。その隙に乗っ取られてしまったようだ」


 なるほど。つまりその相手が魔族が言っていた協力者ってことか。それなら候補として、一人だけ思い浮かぶやつがいるな。


 リネアも察しがついたようで、はっとした顔になり、


「領主様、その方はもしかして……」


「ああ、テジル街領主ゴトリー・ネイル氏だ」


 テジル街。俺たちがこのガル街に行くときに一度立ち寄った街だ。


 ガル街は隣街だと言うのに、領主同士が仲違いしたことにより2つの街の間の馬車が廃線していたが、まさかこんなことに協力するほどまでにテジル街の領主がガル街の領主を気に食わないと思っていたなんてな。


「この事が表沙汰になれば彼は責任を取らされるだろう。だが、彼だけでなく、私も責任を取るつもりだ。私はまた、彼と1からやり直したい」


「……そうですか」


 二人の間に何があったかはわからない。だけど、自分の過ちを理解したこの人なら絶対上手くやれる。そんな気がした。


「さて、それでは早速動き始めなければな。と、その前に。リネア君。このお守り、もしよろしければ貰ってもよろしいかな?」


「え?」


 きょとんとするリネアに対し、領主は首にかけられたお守りに手をやり、


「このお守りをそこの彼が私に着けてくれた瞬間、本来の私を暗闇から引きずり出してくれたような感覚があった。きっと、これがあれば私はもう二度と同じ過ちを繰り返さない。そんな気がするんだ」


「そこまで言うのでしたら……どうぞ」


「感謝する。だが、その少年の分は良いのか?」


「心配ありません。アルさんには10個ほど予備に差し上げましたから」


「いや、その……それなんだけどさ。協力者に全部あげちゃって……」


「……アルさん?」


 笑顔でこちらを向くリネアだが、その笑顔からはまったくと言っていいほど笑顔らしさが感じられず、ただの怒りしか伝わってこなかった。


「えと……あの……仕方なかったんです。これ付けないと皆狂っちゃうから渡しておかないといけなくて……」


 しどろもどろになりながら説明すると、リネアは呆れたように溜め息をついた。


「……はぁ、仕方ないですね。あとでもう一つ差し上げます」


「……いいのか?」


「いいんです。そもそも、街を救ってくださったのに成功報酬が少なすぎましたから。お守りの1つくらい、遠慮なくもらってください」


「……そっか。じゃ、ありがたく頂くよ。ありがとな」


「はい」


 話が一段落つくと、領主がパンッと手を叩いた。


「さて、話も終わったことだし、まずはリネア君のご両親を解放しに向かわねばな。それ以外にもまだまだやることはたくさんある。だが、私一人では手に余る。申し訳ないが、手伝って頂けないか?」


 俺とリネアは顔を合わせてお互いに頷くと、領主の方に視線を戻した。


「「もちろんです!」」


「ありがとう。それでは行こうか」


 今は黒幕を倒しただけであって、まだまだやることは山積みだった。だが、街が元に戻るのにそれほどの時間はかからなかった。

次で今回の章は完結……(の予定)

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