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中身

「くそっ……! こんなはずでは……!」


 恐ろしい形相で睨んでくる領主だが、人質が無くなった以上、恐れることは何もない。


 俺は距離を詰めて、横凪ぎに蹴りを入れた。


「ふぉわっ!?」


 だが、領主がそれを間一髪で避けたことにより俺の足は空振りし、大きな隙が出来てしまった。


「しまっ……!」


 攻撃がくる。そう思ったのだが、領主は俺から逃げるように距離を取った。


 ……今ならカウンター出来たと思うんだが……。


 ……もしかしてアイツ、戦いが苦手なのか……?


 試しにもう一度わざと避けれるような攻撃をしてみたが、領主は歯を食い縛り全力でそれを回避すると、再び距離を取った。


「や、やるではないか……。それ以上やるなら、今度はこっちから行くぞ……?」


 滅茶苦茶顔青くなってるし汗かいてるけど大丈夫かお前。


「い、言っておくが私は貴様よりも強いぞ? こ、攻撃してくればきっと後悔することになるヴェアッ!?」


 俺の攻撃は普通に命中し、領主は派手にぶっ飛んだ。


「えぇ……」


 思えばコイツの能力はあんまり戦闘向きじゃないし、ましてや今の俺にはお守りがあるから、使っても意味がない。


「く、そ……この体は領主のものだというのに……、それを、攻撃するとは……」


「え?」


 領主の体? どういうことだ?


 俺が何を言っているのかわからないと思っていると、先ほどまで青白くなっていた領主の表情に血の気が戻った。


「そうかそうか! そういえば言っていなかったな! この体は私のものではない! この街の領主のものだ! つまり、私を攻撃するということは罪ない領主の体を傷つけるということだ!」


 領主はまるで水を得た魚のようになり、自信満々と言った様子で立ち上がると、


「これが私の最後の人質だ! もう一度攻撃してみろ! この体がどうなっても良いのならな!」


 また汚い手を使うな……。


「卑怯な手を……」


 リネアも俺と同じことを考えていたのか、そんなことを口に出した。


「卑怯? 何とでも言うがいい! 私は自分さえ助かればそれで良い!」


「自分さえ助かれば良い……か。ところでアンタ、もしも俺が攻撃したら領主さんの体に何をするつもりなんだ?」


 俺がそう聞くと、領主は卑下た表情をしながら腰の辺りから短刀のようなものを抜き、


「これで手首をざっくりと――」


「そうか」


 俺が指を鳴らした瞬間、床から出現した金のツタが短刀を持っていた手を弾いた。


「――んなっ」


 短刀は宙を舞い、離れたところに音を立てて落下した。


「な――」


「"拘束"」 


 喋る暇も与えず、さらに金のツタが数本出現し、領主の体を完全に拘束した。


 前までは上手く扱えなかったものの、母さんやペドから教えてもらったあともコツコツ練習していたおかげで、ある程度はツタを操れるようになった。


「アルさん、これって……」


「俺の秘密兵器。皆には内緒な」


 リネアがコクリと頷くのを見て、俺は領主に視線を戻した。


「これなら自害出来ないだろ?」 


「なんだ、こんなもの……!」


 領主は力一杯抵抗しているがツタはビクともせず、領主の抵抗は意味を成さなかった。


「ぐっ……。だが、私を動けなくしたところで何か出来るのか? 様々な拷問方法があるだろうが、それで傷つくのは全てこの体のみ……私の体は傷つかんぞ?」


「確かにそうだな。だから、その体を傷つけるつもりはないけど……」


 俺はお守りを外し、それを領主に見せつけ、


「これを着けたら、中のお前はどうなるんだろうな?」


「それ、は……」


 リラックス効果、精神安定の作用があるこのお守り。さらにはこれを着けているだけで領主の中に居る奴の能力を弾くことが出来た。


 だから、これさえあればアイツの能力を無効化し、領主の中に居るやつを追い出せるかもしれない。


「待て、やめてくれ。それは、それだけは……!」


 必死に懇願してくる領主に対し、俺は笑顔で口を開いた。


「お断りだ」


 身動きが出来ない領主にお守りを着けてやると、すぐに表情が悪くなった。


「あ、あがぁ……! く、くるし……、や、やめ……があぁぁぁっ……!」


 取りたくても取れない。腕は俺の出したツタがしっかつと拘束している。


「クソが……! クソが……!! ちく、しょぉ……」


 顔色がさらに悪くなり、そろそろ限界かと思ったところで、急に領主の体から黒い霧のようなものが大放出された。


 やがてその霧は人型の形を作りだし、領主の中に居たものの正体が白日のもとに晒された。


「クソ。余計なことしやがって。来たのが貴様じゃなけりゃ今頃は……!」


 そこに居たのは、立派な角と翼の生えた種族。そう、どこからどう見ても魔族だった。


「どうして魔族がこんなところに……?」


「貴様に話すことなど何もない!」


 魔族は翼を使い、天井近くまで飛び上がると、体から霧のようなものを出し始めた。


「ここなら貴様の攻撃も届かない! 貴様が領主からお守りを取って再び着けるよりも先に、私の霧で支配して――!」


「いやお前コレのこと忘れてるだろ」


 俺が指を鳴らした瞬間、床から伸びた金のツタが魔族の鳩尾を直撃した、


「ごっふ!?」


 攻撃された勢いで壁に叩きつけられた魔族は、そのままピクリとも動かなくなった。


 動かなくなったとは言っても、死んでいるわけではなく、気絶しているだけだが。


「依頼達成……かな」


 俺は一息つき、ひとまず領主の拘束を解くことにした。   

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