謁見
リネアの案内で俺たちは領主邸へと向かい、ついに領主邸へと辿り着いた。
「ここか……」
領主らしく豪華な住居で、邸宅への入り口は門で閉ざされていた。
その門の前には執事が待機しており、リネアは執事に一枚の紙切れを手渡した。
執事はその紙に目を通すと、笑みを浮かべながら顔を上げた。
「この後謁見予定のリネア様とアル様でございますね? ご案内いたしますのでご同行お願いいたします」
「はい。さ、アルさん。行きましょう」
「お、おう……」
執事に案内されるがままに着いて行きながら、俺は小声でリネアに質問した。
「なあリネア。さっき渡した紙切れって何なんだ?」
「手紙の中に入っていた招待状ですよ。あれを見せることで本人だということを証明するんです」
「ああ、そういうことか……」
リネアの説明に納得しながらも俺は執事の後を着いて行った。
なんかこの人は狂っていないように見えるな……。特に変わったところもないし、むしろ普通だ。
そんなことを考えていると、とある部屋の前で執事が足を止めて扉を数回ノックし、声をかけた。
「レムル様、お客様をお連れいたしました」
「入れてくれ」
領主から許しの言葉が出ると、執事はこちらを向き、
「こちらの部屋に領主であるレムル・ホルーン様がいらっしゃいます。扉をお開けいたしますのでお入りください」
ついに領主と対面。何が起こるかはわからない。
俺とリネアは顔を合わせてお互いに頷いて覚悟を決め、執事は扉に手をかけた。
いよいよと思った矢先、執事は扉を開けるどころがバキィッ!! という音と共に扉を外した。
ポカンとしている俺とリネアを前に、執事は真顔で口を開いた。
「どうぞお入りください」
いや、お入りくださいじゃなくてさ。
扉。扉が外れてますよ。
狂ってないとか思ってた俺が馬鹿だった。しっかり狂ってたよこの人も。
部屋の中に居た領主も呆然としてるし、何だこれ。
「それではごゆっくり」
執事は礼儀正しくお辞儀すると、壊れた扉を持ちながらスタスタと歩いていってしまった。
「え、えぇ……」
どうすりゃいいんだよこれ。
「……とりあえず、入りたまえ……」
部屋の中からなんとも面目なさそうな声が聞こえたので、俺とリネアは部屋へと入った。
領主は50代くらいの男性であり、とても落ちついた雰囲気をしていた。
「うちの者がすまなかった。まさか扉を外すとは思っても居なかったのでね」
「いえ、大丈夫です」
そりゃ執事が突然扉をぶち壊すなんて誰も予想出来ないだろうな。
「何しろこの街はおかしくなっているからね。君たちも気をつけてくれたまえ」
……なんだか、今のところはそんなに悪い人には見えないな。
でも、リネアの表情が険しい。この領主にはきっと何か裏があるはずだ。
「それで、ここまで来たんだ。何が聞きたいことがあるんだろう?」
「……はい。この娘……リネアの両親を連れていった理由をお聞かせ願えませんか?」
俺がそう聞くと、領主は立ち上がり、窓の方へと体を向けた。
「……先程も言ったが、この街は狂っている。それはわかるね?」
「はい」
「それを唯一防止出来るのが彼女の両親が作ることの出来るお守りだ。それも……知っているね?」
「知ってます」
「だから、最後の希望である彼女の両親が狂ってしまっては一巻の終わりなんだ。だからこそ、彼女の両親を保護させてもらった」
……まあ、嘘だよな。これ。
「では何故リネアも一緒に保護しなかったんですか? 子供とはいえ、親からお守りの作り方を教えてもらっている可能性もありましたよね?」
「今の状況では二人を保護するので精一杯だった、そこの彼女には申し訳ないことをしたと思っている」
「……どの口でそんなことを言うんですか……」
ボソリと、領主に聞こえないような声でリネアが呟いた。
「……それに、彼女を保護しなかったのにはちゃんとした理由があるんだ」
「理由……ですか?」
「そうだ」
領主は指をパチンと鳴らし、
「ーー利用価値があるからだ」
その瞬間、指を鳴らしたのが合図だったのか、大勢の兵士が部屋の中に入ってきた。
唐突なことに驚いた隙に、リネアは一人の兵士に捕まり、俺は武器を構えた兵士に囲まれてしまった。
こんな数の兵士、どこから出てきたんだ……?
「よくやってくれたよリネア君。おかげで私の目的に向けてまた一歩進む事が出来る」
「目的……?」
「そうだとも。少年、君も私の計画に加わるのだ。全人類全てを支配下に置くという、壮大な計画に!」