変な買い物
俺は街の調査などの予定をある程度済ませ終わり、昼時の商店街を歩いていた。
街全体を回って思ったのは、やはり俺には街の人たちを変にしている原因が見つけられないということだ。
これが魔法で行われているのか、それとも何か道具を使って行われているのか、それすらもわからなかった。
そのため、俺にはその原因を作った黒幕を叩くことしか出来ない。
今のところ一番怪しいのは領主だし、リネアの交渉が通らなかったらもうどうしようもないかもな……。いや、別にまだ領主が黒幕と決まったわけじゃないけど。
「……ま、これについては悩んでても仕方ないか。リネアを信じよう」
こうなると、今のところ俺に出来ることはないかもなぁ……。
そう思って気を抜いていると、自分のお腹が空いていることに気がついた。
……そういやもう昼時だっけ。でも家に戻ってもリネアは居ないだろうし……何か食べるならどこかの屋台とかだな。
おっ、丁度すぐそこに焼き鳥の屋台があるじゃないか。よし、今日の昼はこの屋台で済まそう。
「すみません。焼き鳥ひとつ下さ…………あっ」
空腹のあまり忘れていたが、この街の人は狂っていて、話しかけるのも危険かもしれないレベルだ。
屋台とはいえ、安易に何かを頼んでも、売ってもらえない可能性すらあるかもしれない。
と思っていたのだが、どうやら俺の思いすごしのようで、店主のおばさんは、
「はいよ。ちょっとまっててね」
と優しい表情で言うと、おばさんは焼き鳥によく使われるという小型の鳥、ムルバードを丸々一匹取り出した。
へぇ、目の前で1から作るのか。まだ羽とかもついたままだし、それって大丈夫なのか……?
そう思っていると、店主のおばさんはムルバードを丸々一匹そのまま串に突き刺し、タレに漬け始めた。
おい今どうやって串ぶっ刺した。ズブヌッ!って音したぞ。ってかこれって焼き鳥……なのか?
俺の疑問を知らずに、店主は串に刺した鳥を焼き始めた。
おかしいな。俺の知ってる焼き鳥は食べやすいサイズに切り分けた鶏肉を串に刺して焼いてたはずなんだが……。
おばさんはその後も鳥を焼き続けた。こんがり火が通っても、少しコゲてきても、そろそろ真っ黒な炭になっても鳥を焼き続けた。
「あ、あの……店主さん……?」
流石に怖くなった俺がおばさんに話しかけると、おばさんは俺に微笑みかけて、
「お待たせ。完成したよ」
そう言って串から炭となったムルバードを抜いて、ムルバードを手渡ししてきた。
何で串抜いたんだ。ってかなんだよこれ。
炭だし、焼き鳥じゃないし、炭だし、タレつけた意味ないし、丸々一匹だし、それに……炭だし。
「どうしたんだいお客さん。早く受け取っておくれ。手が火傷してしまうよ」
「あ、はい……」
俺は嫌々ながら自称焼き鳥を受け取った。
これもうただの丸コゲになったムルバードじゃねぇか。
「はい。じゃあ500ネルになります」
これで金取られるのかよ。いや、でも今この街はちょっとおかしくなってるし、不審に思われないためにも仕方ないか…………。
俺は素直に金を払うと、丸コゲになったムルバードを持って屋台から離れた。
「また来てちょうだいね~!」
ごめんなさいおばさん。多分二度と行かないと思う。
というか、せめてまともなものが食べたい。
この様子だと、恐らく料理系のところは軒並みアウトだろう。
うん。この際贅沢はやめよう。調理済みの料理は諦めて、そのまま食べても美味しい果物とか野菜を買おう。
そうと決まればどこかに青果店は…………おっ! あった! しかも見た感じ鮮度が良い商品ばっかりだ。あそこなら大丈夫だろう。
俺は早速その店に急行し、生で食べても美味しいものを3つ購入することにした。
「全部で450ネルだぞ」
店主のおじさんにそう言われ、俺が代金を渡すと、店主のおじさんは笑顔で商品を俺の方に向け、
「ほい商品だ。受け取りな」
そう言って俺の足元に購入した商品を叩きつけた。
「…………は?」
ぐちゃっ。という音と共にボロボロになった商品を見て、突然のことに俺は呆然とした。
だが、そうしている間にも店主のおじさんは、
「あとこれとこれだな」
といいながら、残りの2つも地面に叩きつけてしまった。
「毎度あり!」
毎度ありじゃねぇよ。
普通に手渡ししてくれると思ってたのになんでいきなり地面に商品を叩きつけるんだこの人。狂ってると言えども限度があるだろこれ。
ってか、リネアはどうやって店から物を購入してたんだよ……。
溜め息をつき、諦めて店から去ろうとすると、店主が俺を呼び止めた。
「おーいお客さん! 商品忘れてるぞー! ちゃんと持って帰ってくれー!」
それゴミ掃除しろって言ってるのと同じだからね?
渋々ゴミ掃除をして、俺は店を後にした。
なんだこれ……合計950ネル払って得たものが丸コゲのムルバードとかどういうことだよ……。
仕方ない。外で何かを食べるのは諦めて、素直にリネアの帰りを待とう……。
そう考えた俺は、丸コゲのムルバードと共に、リネアの家へと帰ったのだった。
狂ってますね(作者が)




