街での別行動
翌朝、早朝でまだ人の少ないうちに街に調査に出てみたが、街の変化の原因についての情報はあまり得られなかった。
まあ、そんな簡単に見つかるくらいならそもそもこんなことにならないだろうし、当たり前と言えば当たり前か。
日が昇ってきたことにより、だんだんと人が増えてきたので、目立たないようにコソコソとリネアの家に戻ると、帰ってきた俺を見てリネアはビクッとした。
「あっ……。えっと……アルさん……ですよね?」
「え? そうだけど……」
あれ? 何で警戒されて……。
「そのローブ……。ここに着いたら脱いでくれませんか? 心臓に悪いので」
「あ、悪い。これのせいか」
正体が露呈しないようにローブを被って最善を尽くして調査をしていたのだが、そのことをすっかり忘れていた。
俺は急いでローブを脱ぎ、リネアに自分が本物であることを証明した。
「そのローブを着ていると、どこかアルさんだと認識しずらいので、これから気をつけてください」
「お、おう……。すまん……」
そう言えばこのローブ、認識阻害の魔術が組まれてたんだよな。
だからこそ持ってきたのに、急いでここ戻ってこようとしてたからすっかり忘れてた。
「わかってもらえれば大丈夫です。それより、朝から調査お疲れ様です。朝食を用意してあるのでどうぞ」
「わかった。ありがとな――っと、リネア。そう言えばひとつ頼みがあるんだが」
「頼み……ですか?」
俺の突然な申し出に、リネアは首を傾げた。
「ああ。予備のお守りが欲しいんだ。……10個くらい」
「どれだけ無駄遣いするつもりなんですか?」
「いやいやいや! そういうわけじゃないんだけどさ! ほら、街がこんな状況だし、いつ街の人が暴走してお守りが壊されるかわからないだろ? それに、この街をこんな風にした犯人と戦うときにも壊れるかもしれないし、あと――」
「わかりました。わかりましたから、そんなにグイグイ主張するのはやめてください」
よし、ゴリ押し成功。ちょっと心が痛いがこればっかりは仕方ない。依頼が達成したらちゃんと10個分のお金払おう。
「悪いな。あとでお金は払うよ」
俺がそう言うと、リネアは一瞬表情を曇らせたが、すぐに元の表情に戻り、
「いえ。それについては大丈夫です。差し上げます」
「え? いや、でもこれ10個って相当……」
「依頼を受けてもらったんですから、これくらいなら無償で差し上げますよ。ただでさえ報酬も満足に支払えませんし、これで返せるとは思いませんが……」
「……そっか。ありがとな」
よし、まともに代金を受け取ってもらえなさそうだし、依頼達成後にこの店のカウンターの上に代金を置いとけばいっか。
「どういたしまして。それで、私はこの後手紙の手配をしますが、アルさんはどうしますか?」
「リネアの作ってくれた朝食を食べたあと、もうちょっと街を調べてみようと思ってる」
「そうですか。なら、今日は別行動ですね」
「だな。お互い、色々と頑張ろうぜ」
「はい。それでは、私はこれから行ってきます。合鍵をカウンターに置いておきましたから、外に出るときはそれを使ってください」
「わかった。そんじゃ、いってらっしゃい」
俺はリネアを見送ると、リネアが作ってくれた朝食を食べ始めた。
うんうん。昨日の夕飯みたいに絶妙な味付け――。
「ごぼっ!?」
むせた。いや。これ、塩と砂糖。それと分量とかその他色々間違えてる。
あれか。昨日ソファーで寝てたリネアに何かしたのか疑われたのが悪かったのか。
くそっ……夕飯が美味しすぎたから完全に油断した……。何て巧妙な手口なんだ……。
味付けが酷い料理ではあったが、俺には食べ物は残さないというポリシーがあったので、頑張ってすべてを完食した。
「ご、ごちそう……さま、でし、た……」
朝食を食べただけで既に力尽きそうになったが、俺には今日、まだやらなければいけないことがたくさんある。
俺はゆっくりと立ち上がり、お守りを10個持ったことを確認すると、ローブを被って外へ出かけた。