信用
「よし。じゃあまずは服を買って、そのあとに風呂を済ませて、買った服に着替えるってことでどうだ?」
「大丈夫ですが……本当に良いんですか? 依頼の報酬も少ないですし、今回色々と面倒を見てもらっていることについては返せるものなんてほぼないですよ?」
「別に構わないぞ」
今の俺からしたらお守りが貰えるってだけで充分だしな。
そもそもリネアが居なければ、安眠できる作用があるお守りがあるなんてことすら知ることが出来なかったかもしれない。
まあ、それを抜きにしてもこんなにボロボロな子を放っておくのは良心が痛むからな。
そう思っていると、リネアはまるで自分を守るように両腕で自身を抱き締め、
「……まさかお礼は体で支払えと言うことでしょうか……?」
どんな鬼畜だよそれ。
「そんな事は言わないから安心してくれ……。……なぁ、リネアの中での俺はどうなってるんだ?」
リネアは少し考える素振りを見せ、
「……弱味につけ込む狼さん?」
それどう考えても最低評価じゃねぇか。
「俺が何したってんだよ……」
「お父さんがこう言っていました。『下心無しで女を助ける男は居ない。男はみな狼だ』と」
「善意真っ向否定かよ」
「それくらい用心しないと危ないとお父さんに言われてますから」
いや、事実そういう人が多いから仕方ないんだけどさ……。
今回の俺の行為は善意だよ? 下心なんて無いよ?
強いて言えばマジでお守り欲しいとかそんくらいの下心しか無いよ?
「でも、少し位は信じても良いんじゃないか? そんなに警戒してばっかりじゃ疲れるだろうし」
俺の言葉に、リネアはこちらを凝視し、
「……というような事を言って油断させたあとに襲われることもあるから注意しろとお父さんから……」
どんだけ娘に男の人を信じさせたくないんだよリネアのお父さんは。
それだけ大事って事なんだろうけどさ、貴方の娘さん、今では男性に対しては人間不信レベルになっておられますよ?
「……用心深いお父さんだな……」
うん。今は諦めよう。
無理に警戒を解かせようとしたらもっと警戒されるだけだろうし、信用は今後の行動で得ればいい。
「……ちなみに、私は信用できる人にしかついていきませんので」
「はいはい。わかったわかっ…………え?」
えっと……それってつまり、少しは信用してくれてるってことか……?
「どうしました?」
「あ、いや……」
もしもこれが違ったら自意識過剰も甚だしいので上手く言葉に出来ずにいると、リネアは一歩引き、
「挙動不審ですね。信用出来ません」
どうやら俺の自意識過剰だったようです。
落胆した俺の様子を見ていたリネアは、クスッと笑って、俺の手を取った。
「あまりにも信用出来ませんから、しばらくアルさんを近くで監視します」
「……手を握る必要はどこから?」
「放っておけば通りすがりの女性に変なことしそうなので、こうしておけば変なことをする前に止められると思いました」
「俺そこまで信用無いの!?」
「冗談です」
俺からパッと手を離したリネアは、笑みを浮かべながら、
「信じてなかったら、ここまでの冗談は言いませんから」
「……結局どっちなの?」
「アルさんの受け取り方にお任せします」
待って何も言わないのが一番怖いんだけど。
……まあ、でも、少しは信頼してくれてるって思っておくか。
「よし、じゃあ早く服屋に行こうか。こんなこと続けてたら日が暮れるし」
「はい。よろしくお願いします」
この後、リネアの服を買ったあと風呂にも入ってもらい、リネアが今日泊まる場所に困らないように宿屋を予約した。
その宿屋の近くには屋台がたくさん出ているので、お金を多めに渡し、これでたくさん食べるよう言って、今日はリネアと別れた。