奇妙な依頼
布団をどうしようか迷った挙げ句、結局は専門の業者に任せることにした。
別に数日くらいなら床で寝ても大丈夫だし、それ以前に今は不安であんまり眠れないから、ぶっちゃけ布団があってもなくても変わらないと思い、業者に任せても大丈夫だろうと判断した。
「さて……どうするか」
布団の対応は終わったためすっかり暇になってしまったが、起きたのが昼だったため、他の事も色々としていたら、もう数時間経てば日が傾くくらいの時間になってしまっていた。
今から依頼っていうのも時間的に無理だろうけど、だからと言って家でボーッとしてたら村の事ばっかり考えそうだし……。
……簡単な依頼くらいなら今の時間からでも余裕で間に合うかな?
ずっと家に居るよりはマシだろうし、ギルドに行って良い感じの依頼が無いか調べてみるか。
俺はそう決めると、ギルドまで足を運び、掲示板を眺めた。
が、流石にこの時間までそんな依頼は残っているわけはなかったようで、あとは時間がかかりそうな見るからに面倒な依頼しか見当たらなかった。
「いや、でもこのまま家に帰るのもなぁ……」
ボソッと呟くように一人言を言うと、誰かに後ろから肩をポンと叩かれた。
肩を叩いてきたのはヘレンさんで、不思議そうに俺の事を見ていた。
「アル君、こんな時間にどうしたの? 朝に依頼を受けてたわけじゃなさそうだけど……」
「あー……。実は今日起きたのが昼過ぎで、何もせずに一日を終えるのもどうかと思ってすぐに終わりそうな依頼が無いか見に来たんですけど……」
俺の言葉を聞いたヘレンさんは納得したように頷き、
「アル君が寝坊なんて珍しいね。うーん……簡単な依頼は大体朝で全部無くなっちゃうかも。初心者の人からしたら貴重な収入源だし」
「ですよね……。ところで、ヘレンさんは今俺に話しかけに来てますけど、休憩中なんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、この時間って依頼を受ける人が少ないし、依頼から戻ってくる人もそんなに居ないから暇なの。あと数時間もすれば大忙しなんだけどね」
言われてみれば、いつもより人がかなり少ない。なるほど、これならほぼ休憩中のようなものだな。現に居眠りしてる受付嬢さんも居るし。
「でも、私は別にサボってるわけじゃないのよ? こうやってどの依頼を受けるか迷っている人の相談に乗るのも立派なお仕事なんだからね?」
「これ仕事だったんですか……にしては少し悪い笑みをしているような気が」
「ん?」
「何でもないです」
ルリといいヘレンさんといい、今日は黒い笑みをする女の人が多いな……。
俺はヘレンさんから視線を剃らすように顔をそむけると、奥の方に何やら見覚えのある銀髪の女の子が座っているのが見えた。
「ん……? ヘレンさん、あの子って……?」
「へ? あ、あの子? あの子はお昼頃にここに来て『依頼があるから掲示板に貼ってください』って言ってから、ずっとあそこで依頼を受ける人が来るのを待ってるの。でも、この時間だから掲示板を見る人も少なくて……」
「依頼……ですか? どんな?」
「ほら、これ」
ヘレンさんが掲示板に貼られている一枚の依頼を指で差し、俺はそれを確認した。
「『街がおかしいので調査をお願いします』……? なんだ、これ……? 報酬も依頼のスケールにしては結構少なめだな……」
報酬には追加で『お守り』と書いてあったが、それを差し引いてもかなり少なめなものとなっていた。
「私もちょっとおかしいと思ったの。街全体ががおかしいなら個人でどうにか出来る範疇を越えているし、ここで頼むようなことではないと思うんだけど……」
ヘレンさんの言う通りだ。だけど、あの子がそれを言ってもまともに話を聞いてくれるお偉いさんは恐らく居ない。
だからこそ、この国で一番大きな街である王都のギルドに依頼しに、あんなに汚れて、お腹も空かせながら一人で頑張って来たってことか?
「……ヘレンさん、この依頼、俺が受けます」
「アル君? でもこれ、簡単な依頼どころかかなり難しい依頼じゃ……」
「いいんです」
報酬は少ないし、まだ大人じゃないあの子の言うことをまともに聞いてくれる人が都合良く現れてくれるかわからない。
それに、あんなになってまで王都まで来た彼女の頑張りを、無駄にしたくはない。
「……そう。じゃ、アル君が受けるって事で受理するね?」
「ありがとうございます」
ヘレンさんに一言お礼を言うと、俺は一人で座っているあの女の子の方へと向かった。
俺が女の子の近くまで来ると、女の子はこちらを振り向き、俺の存在を認識した。
「君の依頼、俺が受けることにした。頑張るからよろしくな」
女の子は椅子から立ち上がると、俺の方を見て口を開いた。
「また私を誘拐しに来たんですか?」
「おい待て可愛く首をかしげながらサラッと誤解を招くことを言うな」
「衛兵さんこっちです」
「やめてね?」
マジで衛兵が来て危うく捕まりかけた。




