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帰宅

 情けない悲鳴をあげながら森を駆け抜けた俺はようやく森から抜け出すと、オークが追ってきていないか確認した後に足を止めた。


 いや、うん。あれ絶対待ち伏せされてたよね。頭脳戦してきたよねあれ。


 っていうかそれ以前にオークとのエンカウント率が高すぎないか……?


「……帰りは迂回して、この森を通らないようにしよう……」


 俺はそう決意して気を取り直すと、ルルグスへと足を進めた。


 正直、グリムの森さえ抜けてしまえばルルグスへの道のりはそれほど危険はないので、難なくルルグスへと到着することが出来た。


 さて、ここまで来れば家まであと少しだ。えっと、確かこの道は左に――。


「おや、アル君じゃないか」


 一歩進もうとしたとき、背後から聞き覚えのある声がした。


 振り返ってみると、黒いローブを被った6人組が居て、その先頭にいる男が俺に話しかけてきていた。


「えっと……セロさん、でしたっけ?」


「覚えていてくれたのか。これは光栄だな」


 やっぱりセロさんか。どうして影の傀儡であるセロさんたちがここに?


「それはだね。君のお母様であるルシカ様に会いに来たからだよ」


 だから何で心の声がわかるんだこの人。


 というか、母さんに会いに……?


「何かあったんですか?」


「いやいや、別にそんなことはないさ。ただ会いに来ただけで、心配するようなことはない」


「そうですか。それなら良かっ――」


「ただし……」


 セロさんは一瞬で俺との間合いを詰めると、耳元で囁いた。


「――今のうちに、覚悟を決めておいた方が賢明だ」


「……え?」


 聞き返そうと思ったときにはすでにセロさんの姿は無く、他の影の傀儡の姿も見えなかった。


「……どういうことだ……?」


 覚悟……? 何のことだろうか……?


 その場に立ち止まって数分悩みつづけたのだが、何の事を言っているのかさっぱりわからなかった。


「……考えすぎても仕方ないか。とりあえず、今は家に向かおう」


 そう決めて俺は歩き始め、記憶通りに道を辿っていくと家に辿り着くことができた。


 さて、とりあえず家に入るか。


 俺は玄関を半分ほど開けると、即座に閉めた。


 その瞬間玄関からドゴォッと何かが衝突したような音が聞こえた。


 俺がそれを確認してもう一度玄関を開けると、母さんが倒れ――。


「――てない?」


 おかしいな。さっき確かに母さんは玄関に衝突したはずだ。


 母さんの事だ、例え急に俺が家に来たとしても即座にそれを察知して、玄関を開けたと同時に抱きついてくるだろう。


 現に俺が今玄関を閉めたときに衝突音がしたし、母さんは間違いなく玄関にぶつかったはずだ。


 それなら、母さんはどこに――。


 ふと、肩に手を置かれた感触があった。振り向かなくてもわかる。これは――。


「……まいったよ、母さん」


 俺がそういうと、母さんが背後から両手を回してきて俺を抱き締めてきた。 


「あら? 今日は大人しいのね?」


「逃ゲ切レル気ガシナインデスヨ」


 現に今も万力なような力で抱き締めてきている。


 これ、俺が逃げようとしてないわけじゃないからね? 母さんが逃げれないようにしてきてるだけだからね?


「か、母さん……そ、そろそろ離してくれると……」


「そう? 残念ね」


 運良く母さんが素直に離してくれたので、俺は靴を脱ぐと家に上がった。


 母さんも俺の後に着いてきていて、俺に話しかけてきた。


「今日は何しにしたの? 引っ越し? それとも永住?」


「両方ほぼ同じだろそれ」


 やっぱりこの人は相変わらずだな……。


 俺はリビングに入ると椅子に座り、母さんも俺の対面の椅子に座った。


「実は、聞きたいことがあって来たんだ」


「聞きたいこと?」


「ああ、それなんだけど……」


 俺が母さんに事情を話すと、母さんはなるほどと頷き。


「つまり、私にやり方を手取り足取り教えて欲しいということかしら?」


「その言い方やめて?」


 母さんがそう言うと悪寒がする。


「さて、それじゃ手取り足取り教えてあげるから着いてきてくれるかしら」


「だからその言い方やめて!?」


 俺がそう言うと、母さんは不満げな表情を見せ、


「だって手取り足取り教えたいんだもの!! 色んな意味で!!」


 俺は即座に逃げ出した。

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