ヒント
突然の思い付きでヘレンさんのところに行ったものの、かなり良いヒントがもらえた俺は王都の外に向かって歩いていた。
よし、今度は変化させるところに力を集中させてやってみるか。
変化させるところは――――――。
と、ふと考えてみて俺の足は止まった。
「…………あれ? どこだ?」
思えば、俺の体はツタを使うときに変化してるわけじゃなかったよな……。それに、ツタを使っているときに体の特定の部分に力が集中していた感じもなかったし……。そうなると、力を集中させるべき場所は……。
「……地面?」
いやいやいや。おかしいだろ。地面に力を集中してどうする。
……これは、もう少し情報を集めてみるか。
確かルリも本気を出すときは力を解放してたはずだし、次はルリに聞いてみるか。
「――それで、僕のところに来たの?」
「ああ。何かコツとか無いか……?」
ルリはうーんと小さく唸ると、顔をあげた。
「こう……まずギュッて力を込めて」
「うんうん……ん?」
「そして、その力をバッと引き出す!」
「全然わからねぇ!? こう、もっとわかりやすい説明を……」
「えー……?」
ルリは口先を尖らせ、俺をジトーッと睨んできたが、諦めたかのように溜め息をつくと、
「仕方ないなぁ……。じゃあもう一回説明するね?」
「ああ、よろしく頼む」
「こうやって力を込めて……」
ルリはそう言いながらしゃがみこみ、
「それをドーンと外に出すんだよ!」
と言いながら勢いよく飛び上がった。
「……あんまり変わってないような……」
ともかく、体の真ん中に力を集中させる感じでやれ。ということだろうか。
「ごめんね。僕にはこれ以上は説明出来ないかなぁ……。参考になれば良いんだけど……」
「いや、十分参考になった。ありがとな」
「そう? なら良かった! じゃ、僕はそろそろ依頼の時間だから行くね!」
「ああ、気をつけてな」
手を振って去っていったルリを見届けてから、俺は顎に手を添えて考えて始めた。
ヘレンさんの言っていたのは、変化させたいところに力を集中させるということ。そして、ルリが言っていたのは多分ではあるが体の中心に力を込めろということ。
二人のヒントを組み合わせれば丁度しっくりくるものになった。
思えば、ツタを使っていたときは全身に力が満ち溢れていたと思うし、ツタを出せる出せない以前の問題で、まずは自分の力を上手く解放しないといけなかったのだろう。
さて、方法はわかったし、多分これで合っているはずだ。あとの問題は……。
「……どうやって体の中心に力を込めろと……?」
こう、手とか足に力を集中させるとかなら辛うじてわかるのだが、体の中心となると、まずどこが体の中心なのかわからないし、わかったとしてもどう力を集中させれば良いのかわからない。
しまった……。ルリに聞いておけば良かったな……。
だけど、今からルリは依頼だから聞きには行けないし……。
母さんなら意外と知ってそうだけど……多分聞きに行ったらしばらく帰って来れなくなりそうだからこれは最終手段として……。
はぁ、どっかに教えてくれそうな人が居ないものか……。
「……………………あっ」
そういえば一人宛があるじゃないか。世話係ということはある程度の教育も担っているだろうから教え方も上手いだろうし、何よりああ見えてアイツはかなり強かったはずだ。
けど、教えてくれるかなぁ……。アイツ、多分俺のこと嫌いだと思うし……。
「……まあ、ダメ元で行ってみるか」
俺は早速家に戻って、とある物を手に持つと、再び家を後にした。