ギルドに報告
リンクさんを背負ったまま王都に戻ってきた俺は、とりあえず気絶したリンクさんを果物屋の店主に任せた。
さて、ようやく一段落ついた。疲れたし、今日はもう休みたいから帰るとするか。
「ルリ、じゃあ俺はここで――」
言いながら家の方に一歩踏み出したところで、ルリに止められた。
「アル、まだやることが残ってるよ?」
「…………え?」
「そもそも僕たちはギルドの依頼で新種の魔物の調査のためにあそこに行ったんでしょ? なら、ギルドに報告しないと」
「……そういえばそうだったな……」
合成魔獣の事で頭が一杯になってすっかり忘れてた。けど、これってどう報告すれば良いんだ……?
「ルリ、この場合はどう報告すればいいんだ?」
「うーん……僕もどうしたら良いかわかんないかなぁ……。とりあえずヘレンさんに伝えてみようよ」
「そうだな。ヘレンさんはギルドの関係者だし、何か良い案をくれるかもしれないな」
そう決めると、俺達は早速ギルドに向かった。
ギルドに到着して中に入ると、ヘレンさんはこちらに気付き、胸の前で小さく手を振っていた。
それを見た俺たちがヘレンさんのところまで行くと、ヘレンさんから話しかけてきた。
「お疲れ様。で、どうだったの? 新種の魔物、見つかった?」
興味があるのか、目を輝かせながら聞いてくるヘレンさんの視線に、俺達二人は目を逸らした。
「あー……。えっと……ですね……」
「そのことなんだけど……」
俺達は合成魔獣がいたこと、そして、その合成魔獣には恐らく邪神が関連していることを説明した。
「――という事があったんですけど……。これ、ギルドにはどう報告すれば良いんですかね……?」
俺がそう聞くと、ヘレンさんは考える素振りをして、
「えっと……この話は外部に漏らさない方が良いだろうし、上位竜種のワイバーンが住み着いていたということにして私がギルドに報告しておくけど……そんな危険なものと戦って大丈夫だったの? 怪我はない?」
「俺は大丈夫ですよ」
「僕も大丈夫。あの合成魔獣、動きが鈍かったからほとんど攻撃には当たらなかったし」
「そ、そう? ならいいんだけど……これからも同じような事が起こるかもしれないから気を付けてね? それと、くれぐれもこのことは内密にね」
「わかりました」
「了解! …………………………あれ?」
敬礼のような動作をして返事をしたルリだったが、突然顎に指を当てて首を傾げ始めた。
「ルリ? どうした?」
「いや、えっと……。その、何か忘れてるような気がして……」
「忘れてること?」
「そう。このままだと大変なことになるような気がするんだけど――――――あっ!?」
「思い出したのか?」
ルリは俺の質問に答える前に俺の腕を掴んで、ギルドの外に向かって走り始めた。
「ちょ!? ルリ!? どうしたんだ!?」
「リンクさんだよ!!」
「リンクさん……?」
リンクさんが何かしたっけか?
「まだ合成魔獣の事、言いふらさいようにって伝えてなかったでしょ!?」
「え? ああ、そうだけど、別にそんなに急がなくてもリンクさんなら言いふら――――――しそうだな!?」
自分の能力の事と共に自慢げに果物屋の店主に語るリンクさんの姿が容易に想像できた。
「そうでしょ!? だから早くリンクさんのところに行かないと!!」
「いや、でもリンクさんは気絶してたはずだ!
そんなに急がなくても大丈夫なんじゃ……」
と、思っていた時期が俺にもあった。
果物屋が見えるところまで来ると、リンクさんは既に気絶から回復しており、店主と話しているのが見えた。
何やら自慢げに何かを話し始めようとしているように見えるが――。
「そういえばギンさん! 実は私、さっき合成魔らぼるべがっ!?」
悪いとは思ったが、口封じのために寸前のところで飛び蹴りをリンクさんに食らわせた。
呆然としている店主に軽く会釈をして、俺はまたもや気絶したリンクさんを担いだ。
「すみません。ちょっとリンクさんをお借りしますね」
「え? あ、お、おう……?」
何がなんやらわからないといった様子の店主だったが、とりあえずは了承が取れたため、俺はリンクさんを自宅まで連行することにした。
「……難儀な奴だな……。アイツは……」
哀れみの視線がリンクさんに向けられていたが、気絶していたリンクさんはその視線の事など知るよしもなかったのだった。




