絶体絶命
更新遅くなりましたすみません!
もう駄目だ。恐らくこの場に居た誰もがそう思った。
至近距離からのブレスに防ぐ手段は無く、まともに反応すら出来なかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?」
一番合成魔獣の近くに居たリンクさんは反射的に手を前に出して、顔を背けた。
そして、ブレスはリンクさんに直撃――するかに思われたのだが。
「…………………………え?」
パシュンッという力の抜けたような音と共に、ブレスは消えてしまった。
リンクさんはそのまま尻餅をつき、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
「…………え、えっと……。た、助かったん……でしょうか?」
「多分……そういうことでしょうね……。でも、どうして……」
「合成魔獣も相当弱ってましたし……あのブレスにそこまで力がこもってなかったんじゃないですか?」
「そういうこと……なのか?」
だが、最後に見たあのブレスは、最も大きく、魔力も大量にこもっているように見えたし、間違いなく一番火力の高いものだったはずだ。
それなのにリンクさんに当たる直前で消えるなんてことが有り得るのか……?
「いやー、どうなることかと思いましたよ……。生きた心地がしませんでした……。もう少しブレスが消えるのが遅かったら私、余裕で死んでましたよ。見ましたかアルさん。これが私の運の良さです」
「ドヤ顔やめてください」
酷い……と言いながら膝に顔を埋めてシクシク泣いているリンクさんを見て溜め息をつくと、ルリが後ろから指先でツンツンと突ついてきた。
「どうした?」
「その、アルは本当にブレスが自然消滅したんだと思う?」
「……正直、そうは思えないな。あれ、相当力がこもってただろ?」
「だよね……。ってことはやっぱり……」
そう言うとルリは、腕を上げて、手の平をリンクさんの方に向けた。
「……ルリ? 一体何を……」
「リンクさん」
「はい?」
ルリの呼びかけにリンクさんが振り向いたその瞬間、ルリの手の平から魔法が放たれた。
「ちょっ!?」
またもや反射的に手を前に出したリンクさん目の前で、ルリの魔法は先程のブレスのようにパシュンと消えてしまった。
「やっぱりそうなんだ……」
「「何が(ですか)!?」」
俺とリンクさんが二人揃ってルリに問い詰めると、ルリはばつの悪そうな顔をした。
「ごめんなさいリンクさん。でも、どうしても確かめたくて……」
「確かめたい……ですか?」
「うん。それでわかったことなんだけど、多分リンクさんは手を前に出したときに、無意識に分離の魔法を使ってたんだよ」
「私が、無意識に魔法を……?」
「そう。手を前に出すときって、瞬間的ではあるけど手に力が入るでしょ? そのときに無意識に使ってたんじゃないかなーって思って」
なるほど、とリンクさんが呟いたが、その後すぐに首をかしげ、
「でも、私の魔法が発動したからといって、どうしてブレスや魔法が消えたんですか?」
「うーん。それなんだけどさ。あくまで僕の推測なんだけど、魔法って魔力以外にも″何か″が混ざってると思うんだ。だって、構成物質が魔力だけだったら誰だって好きな魔法を使えちゃうわけだし」
なるほど、ってことは……。
「つまり、リンクさんは無意識に分離の魔法を発動したことによって、ブレスや魔法を魔力と″何か″に分離させたんだよ。それぞれが別々になっちゃえば攻撃性なんて無くなっちゃうだろうしね」
……ちょっと待て。それが合ってたらリンクさん相当強くないか?
リンクさんはどう思っているのか気になり、リンクさんの方を見てみると、
「……え? 私の魔法強すぎ……?」
口を手で押さえながらそう呟いていた。殴りたい、あの笑顔。
「アルさん。どうですか私の魔法! 強くないですか!? 強いですよね!? ねぇ!? 強ぐべらっ!!」
結局顔面目掛けて殴った。
いや、これは調子に乗って変なことをする前に、魔法を使わずに襲われたらどうなるかを教えるためで、他意はない。他意は……ない。
リンクさんは5mほどぶっ飛んだあと、そのまま気絶してしまった。
「アル……流石にやりすぎじゃないかな?」
「いきなり魔法ぶっぱなしたルリにだけは言われたくないんだが……。それに、これで少しは教訓になるだろ」
とは言ったものの、リンクさんが居なければ危なかったことは事実だ。俺たちは相当運が良かったんだろう。いや、運が良いのはリンクさんの方、だったな。
俺はリンクさんを背負うと、ルリと一緒に王都へと戻ったのだった。