覚悟
更新遅くてすみませんでした。
放たれたブレスは真っ直ぐ俺達のところに向かってきたので、冷静に全力で横に走ってその場を離れた。
後方から爆発するような音が聞こえてきたが、合成魔獣は俺達がブレスを避けたのが見えていたのか、すぐに俺たちを追いかけてきた。
「うわ! 追いかけてきてますよ!」
「わかって…………ます!」
追いかけてきたキメラに当たる寸前で横に避けると、キメラは足でブレーキをかけて止まり、再びこちらを向いて突進してくる。
「あいつの攻撃は強力だけど、単調なものが多いんです。だから、しばらくこうやって避けまくってれば大丈夫だと思います」
「そうは言っても、これ怖くないですか!?」
「男なら気を強く持ってください」
「そんな無茶な!」
涙目で訴えてくるリンクさんを無視して、俺は合成魔獣の突進を避け続けた。
「あばばばばばばばばばばばばばばばば」
一蓮托生と言ってくれたはずなのに早速リンクさんが恐怖で気絶しそうになっているので、足をつねってリンクさんの意識を無理矢理覚醒させた。
「いだだだだだだだ!! な、何するんですか!?」
「リンクさんが気を失ったら時間を稼いでる理由がなくなるじゃないですか」
「あ……。確かに……」
リンクさんにはこの後合成魔獣を分離してもらう必要があるので、ここで気絶されてしまってはどうしようもないのだ。
「頑張ってください。もう少しの辛抱ですから」
そろそろルリが技の準備を終えているはずなので、あとはそこまでコイツを誘い出すだけだ。
「グルアァァァァァァァァァァァァ!!」
「それはいいんですけど……な、なんか怒ってませんかアレ!?」
攻撃がかすりもしないことが癪にさわったのか、怒ったかのように声を荒らげてこちらに迫ってきた。
激化する合成魔獣の攻撃に苦戦しつつ、何度も突進を避けてどんどんとルリが待機している所へと近づいていく。
「確かここらへんだったはず……! ……よっと!」
突進を避けた俺達に、再び合成魔獣が視線を合わせたそのときだった。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
木の上から輝く剣を振りかぶりながらルリが降りてきた。
そして、丁度キメラの目の前に着地する形になったルリは、着地すると同時にその剣を地面に叩きつけた。
その瞬間爆風が吹き荒れ、大量の砂塵が舞い上がった。
あとは俺がリンクさんを運んで合成魔獣の背後に回り込み、リンクさんに分離してもらうだけだ。
足音でどこに居るのか判別されないよう、出来るだけ距離を取りつつ合成魔獣の背後に回り込んだが、そこでリンクさんが何かに気がついた。
「なんか……バサッバサッて音が聞こえませんか?」
「音……ですか?」
移動することだけ考えていたのであまり音に注意していなかったが、確かにリンクさんが言っていたような音が聞こえた。
「これは……翼を動かしてる音……ってことは!」
急いで合成魔獣に接近しようとすると、砂塵が途中で途切れていることに気がついた。
正確には合成魔獣を中心に砂塵が晴れている状態になっていて、これでは背後から近付いても足音でバレてしまう。
「翼を動かして周囲の砂塵を払った……ってことですか?」
「そうでしょうね。飛ばれなかっただけマシですけど、これじゃリンクさんを合成魔獣のところまで運べない……」
どうしたものかと思っていると、リンクさんが口を開いた。
「私を投げてください」
「え?」
突然の提案に俺は驚かせざるをえなかった。
「投げるって……どうして……?」
「このままじゃ僕らを隠してくれている砂塵も晴れて、見つかってしまいます。ですが、まだ砂塵が晴れて居ないのならこちらが先手が取れますよね? ですが、普通に近付いても合成魔獣の周囲は砂塵が晴れていますから、足音だけですぐに居場所がバレてしまいます。でも、音を立てずに近付けば話は別です。私たちは今合成魔獣の背後を取っていますから、投げていただければバレずに接近出来ると思います」
「でもそれって……」
そもそも俺がリンクさんを背負っていくのは、素早く近付くためだけでなく、分離させたあとにリンクさんに危険が及ぶ前に合成魔獣から離れさせる目的もあった。
リンクさんはそれを承知していたからこそこの作戦に参加してくれたのだ。
だが、投げるという作戦に変更してしまえばリンクさんを救出することが出来るかわからない。
だが、俺の心配をよそにリンクさんは笑顔になり。
「心配しないでください。ちょっと怖いですけど、今まで魔物や盗賊に襲われても私は無事に生き延びてきましたので、自分の運の良さに自信があるんです。せめて貴方たち二人の攻撃を阻害している魔物くらいは分離させてみせますから、そのあとは助けてくださいね?」
本当は"ちょっと"怖いどころではないはずだ。無理に笑っているし、膝も少し震えている。
でも、この砂塵を舞い上げる作戦は合成魔獣はすでに学習しているだろうし、二度も同じことをしても通用しないだろう。
だとしたらこの機を逃す前にやるしかない。リンクさんが覚悟を決めたのに俺が躊躇ってどうする。
「……わかりました。必ず助けます」
「よろしくお願いしますね」
俺はリンクさんを持ち上げて投げる体勢を作り、リンクさんに問いかけた。
「準備は良いですか?」
「いつでも大丈夫です」
リンクさんの声は少し震えていたが、覚悟が消えていないことは充分にわかったので、俺は砂塵の向こうの合成魔獣を見据えた。
「行きます!」
「はい!」
槍投げの要領でリンクさんを投げると、リンクさんは放物線を描きながら合成魔獣の元へ飛んでゆき、リンクさんは合成魔獣の背中にガシッと掴まった。
それを確認した俺が瞬時に合成魔獣に向かうと同時に、リンクさんは魔法を発動した。
「分離!」
「グギッ!? ガギャァァァァァァァァァァァ!?!!?」
リンクさんが魔法を発動すると合成魔獣苦しみ暴れ始めた。
リンクさんは必死に暴れている合成魔獣に掴まっており、暴れている合成魔獣は胸元が輝いていて、そこから何かが出てきていた。
「あれは……」
それは生物だということがすぐにわかり、やがてその生物は合成魔獣から完全に分離した。
「うわぁっ!?」
その直後リンクさんは合成魔獣に振り落とされた。
運良く飛んできたのがこちらの方向だったので、俺はリンクさんをギリギリキャッチすることが出来た。
「ナイスファイトですリンクさん」
「すみません。やっぱり一体しか分離させられませんでした……」
「大丈夫ですよ。これで少しはマシに……」
チラッと分離された魔物を見てみると、白い綿毛に包まれたそれはそれはとても可愛らしい魔物で、あれが合成魔獣の戦力に加担しているとはまったく思えなかった。
「あの……リンクさん。言っちゃ悪いんですけどせめてもう少し強そうなやつを剥がして欲しかったです」
「そんな!? だってどんな魔物を分離させたって戦力は下がるは……ず……」
と言いかけて、リンクさんの視界にもあの可愛らしい魔物が映ったのか、言葉を中断させてとても申し訳なさそうに目をそらした。
「……なんか……すみません」
「あ、いや……。その……。こっちもすみませんでした」
二人して微妙な雰囲気になり、またしても振り出しに戻ったと思ったそのとき、潜んでいたルリが合成魔獣に向かっていくのが見えた。
その手には、効くはずもない光を纏った剣が握られていたのだった。
良ければ新作の方もよろしくお願いします。




