全力逃走
予備動作もなくいきなり突進してきた合成魔獣に内心驚きつつも、俺とルリは横に飛んでその攻撃を避けた。
リンクさんは俺が脇に抱えているため、一人取り残されて合成魔獣に轢かれることはなかった。
「ひっ!? いきなり突進してくるとか凶暴すぎやしませんか!?」
「いや、こういう風に突然襲ってくる魔物って結構居ますよ?」
「え?」
俺の言葉にリンクさんは目を丸くした。
そんなことも知らないで今まで一人の時どうやって生き延びてきたんだよこの人。
「そんなはずは……。いや、でも……」
「……どうかしました?」
何か思うところがあったのだろうか?
「あ、いや。今この場には関係ないと思うんですが……」
「いえ、何かのヒントになるかもしれませんし、教えてください」
そう言うと、何やら神妙な面持ちをしていたリンクさんは、ゆっくりと口を開いた。
「思えば今まで出会った魔物は比較的温厚と言われる部類の魔物でしたから、襲われなかったのは当たり前だったのかなぁ……と」
ふむふむなるほど、それはつまり――。
「今この状況に全ッ然関係ないんですけど!? 凄まじくどうでもいいんですが!?」
「だから関係ないって言ったじゃないですか!!」
「いやだってあからさまに含みのある言い方してたじゃないですか!!」
「含みのある言い方ってなんですか!?」
二人で言い合っていると、俺達二人を大きな影が覆い尽くした。
「「……? 急に暗く……?」」
チラリと横を向いてみると、そこには強靭な腕を上に振り上げた合成魔獣の姿が――。
「――っぶねぇ!?」
リンクさんの首根っこを掴んで瞬時にその場から離れたその刹那、合成魔獣の腕が先程まで俺達が居た場所に振り下ろされ、その場にちょっとした隕石でも落ちたかのようなクレーターが出来ていた。
危なかった……あれに当たったらヤバかったな……。
リンクさんの首根っこを掴んだときに「ぐえっ」とひしゃげたカエルのような声が聞こえたが、あの一撃を食らうよりもマシだろう。
というかまだ首根っこを掴んだままだったことに気付き、俺はリンクさんの首根っこからパッと手を離した。
「ゲホッゲホッ!」
リンクさんがむせているけど俺は悪くない。不可抗力だ。
ボク、ナニモワルイコトシテナイヨ。ホントダヨ。
「アル! 油断してたら危ないよ!!」
「ごめんなさい」
離れた位置に居るルリからの叱咤に、俺は気持ちを切り替え、再び合成魔獣を見据えた。
「グルルルルルル……」
合成魔獣は俺達二人を潰せなかったことが気に入らなかったのが、先程よりも殺意が高くなっているように見えた。
「あのー……私たちにかなりご立腹みたいなんですけど……どうするんです?」
ビクビクしながらリンクさんが聞いてくるが、これは俺からしたらチャンスだ。
「俺達を狙ってるならむしろ都合が良いです。ルリが砂塵を生み出すための技を打つ時間を稼げますから」
「え。てことはまさか……」
顔を青白くさせながら聞いてくるリンクさんに、俺は残酷な一言を告げた。
「しばらく俺達は囮ですよ」
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
リンクさんの叫び声を合図に、合成魔獣が再びこちらへと突進してきた。
俺はリンクさんを背負って、合成魔獣の突進を回避した。
恐怖からか、リンクさんが俺を掴む力が強まっていた。
「今みたいにちゃんと捕まっててくださいね」
「当然です!! ま、万が一死ぬときは一緒ですからね!!」
「え。いや、心中とか嫌なんですが……」
「私も嫌ですよ!! 何一人で不満そうな顔してるんですか!!」
俺としてはこうやって軽口を言っている方が少しリラックス出来るので、囮役を本気で怖がっているリンクさんには申し訳ないが、リンクさんが居てくれた方がありがたい。
「そもそも何で一撃でも食らったら死んじゃうような私が囮なんて――」
「――それじゃあ……」
不満を述べているリンクさんの言葉を遮るように、俺は一言告げた。
「精々死なないように頑張りますか」
リンクさんはその言葉を聞いて困ったように溜め息を吐くと、
「……ああもう! どうせここまで来たら一蓮托生です! 死んだら一生恨みますからね!! 頼みましたよ!!」
「安心してください。そのときはリンクさんの一生も終わりますから」
「笑顔で物騒なこと言わないでくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
リンクさんの叫び声をよそに、合成魔獣はブレスを吐く準備を始めていた。
「あ、早速ヤバそうです」
「ちょ!? 覚悟した先から死ぬとか嫌ですよ!? 嫌ですからね!? お願いしますよ!?」
そんなやり取りをしている間に、合成魔獣からブレスが放たれた。
何故かこの時期に新作を書き始めてしまった()
よろしければそちらの方もよろしくお願いします。




