再戦
話し合いを終えた俺たちは、洞窟の出口へと向かっていた。
「上手くいくでしょうか……」
そう不安そうな声でリンクさんが呟くと、リンクさんの前を歩いていたルリが後ろに振り向き、
「大丈夫だよ。多分……きっと……おそらく」
「何で段々自信が無くなってるんですか!?」
ルリの曖昧な発言で、リンクさんの不安が一層悪化する結果になってしまったが、さっき立てた作戦はそこまで難しいわけではないので、細心の注意を払って行動すれば大丈夫なはずだ。
「心配しなくても大丈夫ですよ。絶望的に難易度が高いわけではないですし、むしろ充分実現可能な作戦ですから」
「そう……ですよね。なら良かったです」
ホッと溜め息をついたリンクさんを見て、俺は戦闘慣れしていないリンクさんを巻き込んでしまったことに、今更ながら少し罪悪感を覚えた。
リンクさんだって、危険なことはしたくないはずなのに――。
「……えっと、どうかしましたか?」
「え?」
「いえ、じっとこちらを見ていたので、何か用があるのかと……」
別にじっと見ていたつもりはなかったのだが、どうやら思った以上に凝視しすぎていたらしい。
だが、先ほど感じた罪悪感を晴らすなら今しかないだろう。俺はリンクさんに頭を下げて、謝罪の言葉を述べた。
「すみません。こんな危険なことに巻き込んでしまって」
「え!? いえ、別に大丈夫ですよ! 気にしないでください!」
でも――と続けようとした俺の肩に、リンクさんが手を置いた。
「そもそも貴方たちが来てくださらなかったら、私はあの牢屋の中で餓死していたかもしれないんです。そんな命の恩人にお礼を返せるならこのくらい平気ですよ」
まあ、まだちょっと怖いんですけどね。と頭に手を乗せながら笑うリンクさんはどこか格好良く見えた。
「リンクさん……」
「もし、それでもまだ何か申し訳ないと感じるのなら、ここから無事に帰れたとき王都で果物のひとつでも奢ってください。良い露店を知ってるんです」
良い露店とは多分ギンさんの店のことだろう。あの人もリンクさんの知り合いみたいだし、王都に戻ったら一番最初にギンさんのところへ向かおう。
「わかりました。じゃあそうしましょう」
「はい、楽しみにしていますね」
リンクさんと約束をしたあとに前を見ると、いつの間にか出口の近くまで来ていたようで、俺は気を引き締めた。
「洞窟を出た瞬間に遭遇するかもしれないから、警戒しておいてください」
「は、はい……」
そろそろ戦闘に入るかもしれないところまで来て緊張しているのか、リンクさんはぎこちない返事を返してきた。
リンクさんに肩の力を抜いてくださいと声をかけつつ、警戒しながら洞窟を出たが、周囲に合成魔獣の姿は見えなかった。
しばらく歩き回っていれば嫌でも遭遇するだろう。そう考えていたが、一向に合成魔獣は姿を現さずにいた。
「居ないな」
「居ないね」
「居ないですね」
こうも姿を現してくれないと、身構えていた気持ちが少し緩くなってしまいそうだ。
「もしかして合成魔獣はこの山から離れてどこかに移動しちゃったのかな?」
「ありえない話ではないだろうけど……こんな短時間で移動するものなのか?」
俺達が洞窟に逃げ込んで、また洞窟から出てくるまでにそこまで時間はかかっていない。
これくらいの時間なら、むしろ合成魔獣がまだ俺達を探している可能性があるくらいで、とてもではないが合成魔獣がこの山から移動したとは思えなかった。
「でも、今思えばさっきも出会うのに時間がかかったし、意外とそういうものなのかもね」
「まあ……この山はそれなりに広いからな」
きっとそのうち出くわすだろう。そう考えていたが、リンクさんが遠慮がちに声を出した。
「あの、もしかしてお二人を逃がしてしまったことに腹を立てた合成魔獣が王都に向かってるなんてことは……?」
「え……?」
確かに有りうるかもしれない。というか、こんなに探しても遭遇しないということはまさか王都に――。
と思っていると、前方の地面からボコッという音が聞こえた。
何かと思って見てみれば、音がした場所から合成魔獣の頭だけが地面から出てきていた。
なんだあのシュールな光景。
そして、合成魔獣は俺達の姿を確認すると、地中にあった身体を地上へと現した。
というかお前潜れたのかよ。と思ったが、今はそんなことを考えている暇がないのですぐにその考えをやめ、合成魔獣と向き合った。
「あれが合成魔獣……ですか」
リンクさんがぽつりと呟いたあと、最初に動いたのはキメラだった。




