決意
「いやいやいや! 無理ですって! 魔法を使う前に私が死んじゃいますよ!!」
そう言いながらリンクさんは顔の前に出した両手をぶんぶんと振って、拒否の気持ちを伝えてきた。
学者として暮らしてきたリンクさんが魔物との戦いに慣れているわけがないだろうし、それに加えて今回戦わなければならないのは合成魔獣だ。
危険がありすぎるし、戦いたくないという気持ちは充分にわかる。
「でも合成魔獣を倒さない限り、無事に王都に戻るのは難しいと思いますよ。 ここ、結構奥深くに位置してますし」
「うっ……。それは……そうですけど……」
「それに、現状で合成魔獣を倒すにはどうしてもリンクさんの力が必要なんです。だから、どうかお願いします!」
俺が頭を下げて頼み込むと、ルリも俺と同じように頭を下げた
「僕からもお願いします。このままだと大変な事になっちゃうから、その前に合成魔獣をなんとかしたいんです!」
「ちょっ!? と、とりあえず頭を上げてください!」
俺たちは慌てた様子のリンクさんの言う通りに頭を上げた。
リンクさんは頭を抱えて唸っていたが、やがて何かを決意したような顔でこちらを向くと、
「……わかりました。どうせこのままじゃ無事に帰れなさそうですし、そこまで頼み込まれたら断れませんから」
「ってことは……」
「ええ、私も合成魔獣を倒すのに協力させていただきます」
「「本当ですか!?」」
俺とルリがグイっとリンクさんに詰め寄ると、リンクさんは後ろに一歩下がり、
「はっ、はい! で、でもそんなに期待しないで貰えると気持ち的に楽というか何というか……」
そ、そんなに恐縮しなくても良いと思うんだが……。
とは言え、リンクさんが協力してくれることになったのはとてもありがたい。おかげで、合成魔獣を倒すことが可能になったからだ。
「いや、リンクさんのおかげで合成魔獣を倒す算段が出来たんです、だからそんなに卑屈にならないでください」
そう声をかけると、何故かリンクさんは言いにくそうに目を逸らし、
「で、ですが……」
言い淀みながらも、リンクさんはゆっくりと口を開いた。
「この魔法を使うには一つ問題があって……。その、発動し終わるまで対象に直接触れていないといけないんですよ……」
…………え? そんな条件あったの?
「えっと……つまり、問題はどうやって僕たちがリンクさんを合成魔獣に触れさせるかってことかな……?」
「そうだな……」
どうにか一瞬隙を作って、そこに素早くリンクさんに触れてもらうとか――。
「……ちなみになんですが……私、ゴブリンから逃げるくらいが精一杯の速度でしか動けません」
今の考えは却下だな。うん。
「僕たちでも逃げてるときに追い付かれそうなくらい早かったから、かなり大きな隙を作らないといけないね……」
ルリがどうしたものかという風に溜め息をついた。
「そういうことになるな。……………………ん?」
追い付かれそうなくらい早かった? じゃあ俺たちはどうやって合成魔獣から距離を離すことが出来たんだっけ?
「…………そうだ! 砂塵だ!」
俺がそう言うと、ルリは一瞬考える素振りを見せ、
「……あっ、そっか!」
と納得していたが、リンクさんはどういうことかわからなかったようで、
「え? 砂塵……ですか?」
と言いながら首を傾げていた。
「はい。さっき俺達は偶然舞い上がった砂塵のおかげで合成魔獣の目を眩ませて逃げることが出来たんです。だから、そのときみたいに砂塵を舞い上がらせて、合成魔獣の視界を奪って隙を作ります」
「その隙を逃さずに私が魔法を発動する……ということですか?」
「そういうことです」
でも、さっき砂塵に紛れて逃げる手段を使ってしまったため、また同じように砂塵が舞い上がったら、合成魔獣警戒するかもしれない。そうなると、先程のよりも隙は少なくなってしまうだろう。
となると、砂塵の中をリンクさんの足で移動してもらうのは少し心配だ。だから――。