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ひとつのお願い

 何故ここに本人リンクさんが……というか、こんな偶然があるのか?


 まさか、またイルビアが変装してるなんてことは……。


「えっと……、イルビアじゃ…………ないですよね?」


「……? そのイルビアさんという方がどんな人か私は知りませんし、貴方とも初対面ですよ」


「そう、ですよね……」


 わざわざ正体をバラしたときと同じ人物に変装するなんてことをイルビアがするわけもないだろう。それに、イルビアが変装していたときは自分の事を″僕″と呼んでいたのに対し、今目の前にいるリンクさんは自分の事を″私″と呼んでいた。


 確実ではないが、高い確率で本人だろう。


「えっと、リンクさんはどうしてこんなところに?」


「それはですね――」


 ルリが聞くと、リンクさんは上を向いて『ふっ』と自慢気な態度を取ったあと、こちらを向いてドヤ顔になり、


「――山を探索中に盗賊に捕まってこの牢屋にぶちこまれたんですよ」


 それしかないだろうな。何で自慢気に話したんだよ。ドヤ顔やめろ。


「まあ、盗賊達は私を置いてこのアジトを出ていってしまいましたけどね。『奴隷商に売るつもりなだけだったお前を連れていく余裕なんかない』と言ってましたよ」


「えっ?」


 わざわざ捕まえた収入源に成りうる人を置いてアジトを後にするなんて、盗賊がそんなことするのか?


「随分焦ってましたよ? もしかしてこの洞窟の外で何かあったんですか?」


「いや、特に変わったことは――――――あったな……」


「うん、絶対アレだね……」


 恐らく原因は合成魔獣キメラだ。


 盗賊達がここを根城にするのであれば、この山をある程度支配下に置いておく必要がある。


 だが、それを合成魔獣キメラが許さなかった。活動を妨害され、さらに何をしても倒せない合成魔獣キメラの存在を恐ろしく思った盗賊達は、ここから撤退することを決めたのだろう。


 ん? だとすると……。


「じゃあさっき会った二人の盗賊は何であんなところに……?」


「置いていかれたんじゃないかな?」


 何だそれ可哀想すぎるだろ。


「確かに盗賊達が出ていったあと、二人の男が来ましたよ。全員出ていったと言ったら膝から崩れ落ちてましたけど」


 そんなことがあったあとにハイテンションで襲ってくるとかメンタル強すぎないかあの盗賊。


 あの二人の盗賊達に少しだけ同情していると、リンクさんが立ち上がった。


「さて、何はともあれようやく普通の人が来てくれて嬉しいです。それで、早速で申し訳ないのですが、私をこの牢屋から出して頂けないでしょうか?」


「あ、はい。わかりました」


 と、頼まれてみたものの、一体どうやってこの鉄格子を壊したものか――。


「えいっ」


 俺が考えている間に、ルリが力を抜いているかのような声を出して剣を振ったかと思うと、目の前の鉄格子の一部が破壊され、人一人くらいなら通れそうな隙間が完成した。


「アル、これなら一人くらいは通れると思うよ」


「お、おう……」


 作業が早すぎやしないか? とはいえ脱出口が出来たのでリンクさんにそこから出てもらうと、リンクさんはもう一度こちらに頭を下げた。


「ありがとうございます! 本当に助かりました! これでようやく外に出られますよ!」


「あ、いや……まだここから出ない方が良いですよ?」


「へ? ど、どうしてですか?」


「えっと……外に合成魔獣キメラがうろついてまして……」


 俺がそう言うと、リンクさんの顔が一気に真っ青になった。 


「キ……合成魔物キメラ……? 極悪非道な違法研究の末に産み出されたと言われているあの合成魔物キメラですか…………?」


「その合成魔獣キメラです」


「そんな……」


 リンクさんは膝から崩れ落ちるとそのまま四つん這いになったが、

俺とルリはそれをスルーして話し合いを始めた。


「で、あの合成魔獣キメラはどうする? このままじゃいずれ王都を襲いそうだから放っておけないし」


「うーん。そもそもあの合成魔獣キメラ、なんだか僕たち用に対策されたみたいに感じるんだよね」


「確かにな……」


 ルリの言う通り、あの合成魔獣キメラはうまい具合に俺たちの攻撃を全て無効化出来て、かなり部が悪い。


「それに、あの合成魔獣キメラからはなんだか邪神の幹部と似たような気配を感じたの」


「はぁ……。道理で完全に対策されてる訳だ……」


 つまり、邪神は俺たちに相性が良い魔物をごちゃ混ぜにして、それをさらに自身の力で強化したものを俺達に差し向けたのだろう。


「このまま戦っても勝ち目はかなり薄いと思うよ。けど、何もしなければ王都が狙われちゃう。卑怯なやり方だね……」


「せめてごちゃ混ぜじゃなくて、単体の魔物になってくれれば戦えるんだけどな……」


 とはいえ、合成魔獣キメラを分離させる方法なんて――。


「……………………あれ?」


 ちょっと待てよ……? もしかして……。


 俺は顔を横に向けた。そこには、未だに四つん這いになって悲しんでいるリンクさんが居た。


「あの、リンクさん」


「……はい?」


「失礼ですけど、リンクさんって珍しい魔法とか使えたりしませんか?」


「え? アル? どうしたの?」


 ルリが疑問に思うのも無理はないが、説明する前にリンクさんの返事を聞かなければならない。


 リンクさんは少し驚いたような顔をしていたが、質問に答えてくれた。


「……えっと、分離の魔法が使えます」


 やっぱりか! じゃあ……!


「その……くっついた生物を分離することは可能ですか?」


「へ? この魔法は生物については制限が厳しいみたいですが、元ある状態に戻すのであれば可能なはずです。……って、あれ? ひょっとして……」


「はい、出会ってすぐこんなことお願いするのも悪いんですけど――」


 リンクさんは俺の言いたいことがわかっているのか、先程よりも顔色を青白くさせて、冷や汗をたくさんかいていた。


 悪いとは思ったものの、俺はそのままリンクさんに向けてこう告げた。


「――合成魔獣キメラを分離してくれませんか?」

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