気晴らし
ようやくリークスの誤解を解いた俺は、ファルに別れを告げた後にギルドに向かった。
ちなみに、リークスと別れる際に母からの手紙を受け取ってしまったので、ちゃんとその手紙を読み終えてからギルドに来た。
手紙にはいつも通り俺への愛がびっしり書かれていたが、その下に影の傀儡のメンバーと手紙でのやり取りをするようになったとのことが書いてあった。
影の傀儡の人達が母と連絡が取れるようになって良かったなと思うと同時に、母が影の傀儡と文通を取るかわりに俺への連絡が減れば良いな――と思ったのだが、手紙の最後に『どんなことがあってもアルに手紙を送り続けるからね』と書いてあったことから、その望みは薄そうだ。
というか、万が一亡くなったとしても手紙を送ってきそうで怖い。
さて、ギルドはいつもよりも賑わっていて、何事かと思った俺は受付に居るヘレンさんに聞こうと思ったのだが――――――。
「あうぅぅぅ……」
ルリがテーブルに突っ伏しているのが目に入った。
「ルリ……どうした?」
ルリはテーブルに顔を置いたまま、ゆっくりこちらを向くと
「……て、手紙が……増えちゃった……」
「え」
手紙……そういえばこの前、勇者の子孫達から2~3日に一回手紙が届くって言ってたな。
「増えたって……どういうことだ?」
「……毎日来るようになっちゃった」
うわ辛い。ただでさえ母一人から毎日のように来る手紙への対応でも辛いのに、4人から毎日来るのは本当に辛いだろう。
「そもそもどうしてそうなった……」
「なんか、ヘレンさんが言うには『好きな人がいるということをさりげなく伝えれば良い』ってことだったの」
確かに、毎日送ってくるってことは確実にルリの事が好きなんだろうし、好きな人が居るって言えば諦めてくれるかもしれない。
「でも……なんだか逆効果だったみたいで……むしろ増えちゃった」
逆にあいつらの心に火を付けちゃったのか……。心の強さと諦めの悪さ凄すぎるな。
とりあえず、ルリはずっとこんな状態だから精神的に疲れてるだろうし、少しは発散させてやりたいな。何か良い手は……。
「え、えっと……。……気晴らしに依頼でも行くか?」
俺が即席で思い付いたことを言うと、ルリはガバッと顔を上げた。
「……一緒にってこと……?」
「そ、そうだけど……」
あれ? この反応……もしかして嫌だったか?
「いや、別に嫌なら――」
「行く行く! 行くよ!」
「お、おう……」
いきなりガタッと立ち上がりながらそう言うので、少し驚いてしまった。
「アルと一緒に依頼受けるの久々だなー! 楽しみ!」
「そ、そうか……」
何故それほど喜ぶのかはわからないが、これで少しでも気が晴れるなら別にいいか。
「じゃあ早速どの依頼受けるか決めよっか!」
「あ、その前に一ついいか?」
「いいけど……、何?」
「ここ、何かいつもより賑わってるけど何かあったのか?」
「えっと……なんでも見たことの無い魔物が目撃されたらしくて、その調査依頼が出てるみたい。でも、もし新種の魔物だったら強さは未知数で危険だから、受ける人が全然居ないみたいで……。多分そのことだと思うよ」
「なるほど……」
調査依頼か……。こんな依頼が来ることなんて滅多に無いだろうし、受ける人も居ないんだったら……。
「どうせなら俺達が受けちゃうか?」
「うん。アルならそう言うと思ってたよ」
「よし、じゃあこれにするか」
受ける依頼が決まったのでヘレンさんのところに行くと、ヘレンさんは溜め息を吐きながら、カウンターの下から一枚の紙を出した。
「はぁ……。二人が受けようとしてるのはこれでしょ?」
そう言ってヘレンさんが持っていたのは、調査依頼の受付書だった。
「よくわかりましたね」
「二人じゃ並みの依頼なんてすぐ終わっちゃうと思うし、絶対にこれを受けるだろうなぁって思ったの。でも、注意してね? 何があるのかわからないから」
「大丈夫! 危なかったら逃げるから!」
グーサインをしながら自信満々にそう言うルリだが、逃げられなかったらどうするつもりなのか。
まあ、そうそうそんな事にはならないだろうけど。
「じゃあ、行ってきますね」
「うん、気をつけてね」
胸の前で小さく手を振ってくれるヘレンさんを尻目に、俺とルリは依頼に向かった。
その二人の姿が見えなくなったとき、ヘレンはとあることを思い出しハッとした。
「あっ、盗賊団のこと伝え忘れちゃった……。でも、昨日アル君に話したから大丈夫……よね?」
最後どうしても一人称じゃ表現できなくて三人称を入れてしまいましたすみません。
P.S
この前の活動報告に情報を追加しましたので、よろしければもう一度目を通して頂けると幸いです。




